第4話 新商品と次の依頼
「で、この悲しみのブレスレットはどう使うのにゃ?いくら優しさが混じっているからと言っても、生き物にとってあまり良くない物な気がするにゃ。」
ジャティーは不思議そうに尻尾を揺らした。
「んー、今教えてあげても良いけど、次の依頼で役に立つから使い方はちょっとその時まで我慢かな。」
ルメールは少し自慢げに笑い、可愛らしくラッピングされたそのブレスレットを依頼の手紙と共に仕事用の鞄に入れた。
今回の依頼の内容は1人の男性からだった。
ーーー拝啓 ルミエ・ルメール様
突然のお手紙失礼致します。
今回は私の大切な人について相談・依頼をしたく、ご連絡差し上げた次第です。
最近、どうしても彼女の感情が見えないのです。
全てを無理やり喜びで塗り潰していると言うのでしょうか。何があってもずっと微笑んでいるのです。
どれだけ大切に思っていても結局は他人ですから、私も完璧には彼女の感情を理解できると思ってはおりません。
ただ、最近は不安になるほど彼女の感情が見えなくなっているのです。
ルミエ様が感情の抽出を専門としておられるのをとある筋でお聞きし、彼女の過剰な喜びの感情を抜き取る事が可能なのではと思い依頼しました。
どうかお力添えをお願い致します。
ファルマ・ダヤン
まずは、この男性の彼女について知る必要があると思いルメールは数日前から、彼女の働く飲食店をダヤンから聞き何度か足を運んでいた。
「いらっしゃいませー!おひとり様でいらっしゃいますか?」
元気よく笑顔で出迎えてくれたこの店員がダヤンの大切な人、プルミエ・ブルームだ。
名前にピッタリの咲き誇るような笑顔の持ち主でこちらまでつられて笑顔になってしまう。
「ええ、そうです。」
「窓際のお席が空いておりますので、そちらへどうぞー!」
平日且つカフェの時間という事もあり、人は少なく1番眺めの良い席にルメールは案内された。
「こちらメニューです。ご注文がお決まりになりましたら、お知らせ下さい。今日は花の国から仕入れたコーヒーがオススメですよ!」
「また他のメニューも見て考えるよ、ありがとう。」
現段階で彼女はテキパキと仕事もでき、それに店員同士の仲も悪くなさそうに見える。
感情が見えないというのはダヤンの気のせいじゃないのだろうか。
そう思いながら、ルメールは注文をしようと店員に手を振った。
「すみませーん!注文良いですかー!」
はい、ただいまー!という声と共に怒号が聞こえた。
「「だから、あのコーヒーが良いって言ってるでしょ!?なんで分からないのかしら!!」」
カウンターでキャリアウーマン風の女性が息を荒げながら怒っている。
「申し訳ありません。先程から申し上げておりますように当店では毎日日替わりで異なる焙煎をしておりますので、本日は太陽の国のコーヒーの用意が出来ません。」
そこには申し訳なさそうな顔をしているブルームがいた。
「じゃぁ、もう要らないわ。客の注文も聞けないカフェなんて二度と来るもんですか。」
その女はヒールをガツガツとわざと地面に打ち付けながら、店の外に出ていった。
「…あんな人もいるんですね。」
ルメールは注文を取りに来た店員に話しかけた。
「たまにあんなお客様もいるんです。全員がそうじゃないんですけどね。」
店員は苦笑した。
そして、続けて
「ブルームさんは1番長くこの店で働いてるから、どうしても矢面に立つことが多いんです。」
「そうか、彼女も大変だね。」
「でも、いつも変わらずあの笑顔を保っているので本当に凄い人ですよ。尊敬します。」
ご注文をお聞きしますと言われ、ルメールはブルームにオススメされた花の国のコーヒーと自家製オペラを店員に頼んだ。
生きてればいい意味でも悪い意味でも、色んな人に巡り会う。
全部同じ人間だったらそれはそれで怖い。
その人らしさの表し方はそれぞれあるが、その原動力となるのは感情だと思っている。
ルメールは運ばれて来たコーヒーとオペラを交互に口にしながら、キッチンの方へ聞き耳を立てた。
何だか悪い事をしている様な気がしてならなかったが、これも仕事と割り切った。
「さっきの人えらく怒ってたねぇ、ブルームちゃん大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ。あーいうの慣れてますから。」
「本当かい?いつも悪いねぇ。辛くなったら遠慮なく私に言うんだよ。話を聞く事しか出来ないけど、いつもブルームちゃんの笑顔に助けられてるからねぇ。私も恩返ししたいのよ。」
「もう、パルメさんたら優しいんだから!ありがとうございます!この後も頑張っちゃいますよー!」
その会話の中でルメールは何となくだが微笑みの原因が分かった。
会計を済まし、また来ますとブルームに伝えてその日はとりあえず店に帰った。
Consolare ---コンソラーレ 空澄 晴(からすみ はれ) @krocat
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