第3話 必要なものと不要なもの
マリネの海の向こうから再び太陽が顔を出した。
窓際から差し込む朝日にジャティーの艶やかな毛がきらめく。
ふわぁと大きく欠伸をして、窓際からルメールのいるカウンターへ飛び乗る。
「おはよう。ルメール。」
「おはよう。ジャティー。よく眠れた?」
「お陰さまでグッスリにゃ!ん?それはなんにゃ?」
「あぁ、これかい?」
ルメールの手には作りかけのブレスレットが握られていた。
「これはね、ただのブレスレットじゃないんだ。君から抽出した感情の糸で編んだブレスレットだよ。」
「これがこないだの僕の吸収してきた感情にゃ?何だかキラキラして綺麗だにゃ。」
「ジャティー、これが綺麗だと思うかい?じゃぁ、これはなんの感情の糸だと思う?」
「キラキラしてるし、喜びとか幸せかにゃ?」
「残念。これは“悲しみ”の糸なんだ。」
「悲しみにゃ!?あんな気持ちがこんにゃに綺麗なものになるのにゃ?」
「どうしてか知りたい?」
「知りたいにゃ。」
悲しみは良く思われない感情の1つだろう。1度悲しみを抱えると、どうしてもそればっかり考えてしまって、頭の中の楽しみも幸せも1つの悲しみでかき消される事だってある。ルメールもこんな感情必要ないと思っていた時期があった。
「あのね、まず悲しみはみんな必要ないって言うけど、それは間違いだと僕は思うんだ。悲しみは元々優しさから生まれた物なんだ。」
「なんでそれが分かるにゃ?」
「実は僕が感情を抽出する時に全ての感情が綺麗に別れて抽出出来るわけじゃないんだ。悲しみには必ず優しさが混じって出てくる。」
「僕の糸で言うとこのキラキラした部分かにゃ?」
「そう、正解。優しさは光が当たるとどんな物質でも光る事で有名だからね。」
ルメールは話しながら編み終えたブレスレットを日光に当てきらめかせた。
「つまりだ。自分の事を思っても、他人の事を思って悲しんでいても、そこには必ず寄り添う優しさがあるんだ。」
「うむむ…難しいにゃ。」
「そうだね。感情は難しい。でも複雑に絡まった感情が上手くバランスをとって命を生かしているんだ。だから不要な感情は何一つ無いんだよ。」
「はぇー。そうなのかにゃー。」
ジャティーのすっとぼけた返事にルメールは思わず吹き出し、
「ふふっ。そうだなぁ、毎日同じ日はないじゃない?気分は上がったり下がったりする。」
ルメールは指先でゆっくりと波の形を空に描いた。
「うん。いつも幸せとは限らないにゃ。」
ジャティーはルメールの描く線を見ながら頷いた。
「じゃあさ、そっちの方が生きてるって感じがしないかい?悲しみ、喜び、怒り、幸せ。色んな感情のスパイスが効いてて。」
「確かににゃ。なら、感情はいわゆる生きる為のスパイスってやつなのかにゃ。」
「そう!人生に深みを与えるスパイスなんだ。で、これがそのスパイスの素って訳。」
ルメールはキラッと輝くブレスレットをジャティーに見せながら言った。
「ふぅーん。見た感じ普通のブレスレットにゃ。」
「そこが ミソ なんだよ。」
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