第2話 トップアイドル猫ノ宮華子失踪事件

 「だから、今回はただ事件を解決しただけ。何もしてないって。何回も言ってるだろ。君たち馬鹿なの?」

 警察を煽っているのはもちろん土淵川 光世だ。

「あなたの言い分だと自分あてに‟尾崎 信寿”氏から手紙が届き、岩甲山天文台に行ったところそこで事件が起こり、事件を解決したら、犯人である呪い人の元館長‟佐竹 利直”が死んでしまったと」

 バンッ 

「ふざけるな‼またお前が殺したんだろ」

 一人の大男が顔を真っ赤にして叫ぶ。かなり興奮状態だ。終始煽ってくる土淵川を前にするとみんなこうなる。ただ一人を除いては。

 警視庁呪殺捜査課 通称‟呪捜”の課長‟記瑠気憶三郎”《きるきおくさぶろう》


 警察庁呪殺捜査課 呪い人の関わる事件すべての捜査を行う。職員の7割が呪い人であり、公には公表されていない機関。呪人密葬課と間違えられることが多々ある。


 記瑠気 憶三郎 35歳 職業:警察官 趣味:読書

           備考:呪い人で記憶が消えない呪いがかかっている。


「私はね土淵川くん、君のことを気に入ってる。10年前と今回の事件もよく解決してくれた。だが、呪いを使用したこと独断で岩甲山に行ったことは罰則対象だ。それにもし我々‟呪捜”より先に‟呪葬”が到着していたら君殺されてたよ?わかってるのかな君はいつもそうやって自分勝手に.........」

 ※記瑠気は話が長いです。

 話に飽きて壁のシミを数えてた土淵川は昨夜の疑問についてまた少し考え始めた。

「あの男はどうして銃を使ったのか。そして、どこで銃を手に入れたのか。この事件はまだ続いている気がする。と名探偵の勘が言っている。」

「土淵川くん、土淵川くん?土淵川くん!!」

 目の前に記瑠気の顔が。突然のことで椅子から落ちてしまった。

「イテテ...なんですか記瑠気さん。」

「今日の説教は終わり。あと佐竹の拳銃の入手ルートだがまだ分からない。ただPCを調べたところPurple Nagonというサイトを頻繁に閲覧していたよ~。じゃあ寄り道せずに事務所に帰りなよね。あと報告書も出して君は仕事をさぼり......」※記瑠気は話が長いです。

「ありがとう。記瑠気さん」

 立ち上がり尻についた埃を払った。


 浅草メトロの無人駅で降り、寂れた商店街を抜け十字路を左に行ったところに洋館があるその名は‟月光館”その二階の一番端にあるのが‟土淵川探偵事務所”土淵川の事務所だ。従業員は土淵川と事務の種里(呪い人)と猫の二人と一匹。監察官として呪捜の文月(呪い人)も駐在している。記瑠気の長い説教が終わり、重い足で薄汚れた階段を上る。

「‟Purple Nagon”きっと何かあるはずだ」

 帰路もずっと考えていた。

「キャー」

 突然事務所から叫び声が。急いで階段を駆け上がる。

 ガチャ

「どうした?大丈夫か?」

「キャーご、ごきぶりーーーー。た、たね、たっねさとさn、たたたったすけてー」

「今は仕事中なので無理です。」

「たたたねさとさーーーん」

「私が捕まえるにゃん」

 猫がゴキブリを外へと追い払った。

 ん?猫がしゃべったって?それは後でのお楽しみです。

「ふーたすかったーありがとう華子ちゃん。」

 猫を撫でる文月

「たかがゴキブリでそんなに騒ぐな!!」

「たかがって何ですか‼って土淵川先生‼」

 慌てて立ち上がり身だしなみを整えなおした。

「説教お疲れさまでしたww」

「なに笑ってるんだ?監察官失格ってお前後で説教されるからな。あははは」

 がくっと膝から崩れ落ちた文月を尻目にロッキングチェアに腰を掛けシーシャを吸い始めた。独特のリズムを刻む。土淵川のリラックス方法の一つだ。

「種里さんPurple Nagonっていうサイト調べてみてくれ。」

と立ち上がり、身支度を始めた。

「ぼーっとしてないで行くぞ。」

 座り込んでいる文月の背中をたたく土淵川。

「行くってどこにですか?」

 立ち上がり再度身だしなみを整えた文月が問う。

「捜査だ捜査。捜査は足で稼ぐもの。まずは佐竹の自宅に行くぞ。」

「えーーーまずは上に許可をとったりしないと」

「うるせー行くぞ」

 駄々をこねる文月を引きずりながら事務所を出ていった。

 と、思ったら一度戻ってきて

「華子。この事件の黒幕を見つければ‟お前の呪い”解けるかもしれない。」

 と残してまた出ていった。


‟私の呪い”

‟トップアイドル猫ノ宮華子失踪事件” 今もなお未解決として扱われている事件。

 3年前、加藤坂47のライブ直前エースの猫ノ宮華子が失踪する。プロ意識が高くライブの直前でいなくなるような人間ではないと事件性が認められ捜査が始まった。

 実はその事件5日で私は発見されている。ではなぜ未解決のか?それは...


 あの日私は周りの音で目が覚めた。

「全員隅から隅まで探せよ絶対に見つけるんだ」

「はーーい」「華子さーん」「こっちにはいない」「そっちは?」

「華子さんどこにいるんだろう」

「私を探してる?おーいおーい、あ、れ?うまく声が出せない」

 体もいつもより小さい感じが

「わああああ‼‼何この手、に、肉球?どうなってるの?」

 思考が追い付かなかった。

「せんぱーいなんか猫の鳴き声聞こえませんか?」

「はあ?気のせいだろそれよりも華子さんを探せ‼」


 ここがどこかもわからない言葉もしゃべれず絶望の淵に立たされていた。

 しかし、ここから捜査は急展開を迎える。

 捜査3日目事件に呪いが関与してる可能性があると呪捜が動き始めた。

 スピード解決が求められることから、現場の指揮を課長の記瑠気さんがとった。

 呪いが関わっていることが分かったが容疑者が多く捜査が停滞してしまうと踏んだ記瑠気さんは名探偵兼死刑囚の土淵川先生が呼び、捜査を始めた。一人一人から話を聞いていく中で2つの疑問が土淵川の中に浮かんだ。

「加藤坂47のメンバーの一人乙川千尋おとがわちひろの呪いは絶対あるという発言と猫ノ宮華子が失踪する直前姿が見えなかった。それにいるはずのない猫の声。嫌な予感がする...ハッ」

 何かわかった土淵川は走り始めた。

「記瑠気さんあなたは猫を探してください。私は乙川千尋に会いに行きます。私の予想が当たれば猫ノ宮さんは危険な状況だ‼」

 この時私は空腹も合わさり死を感じていた。

 そんな時だった、ガコッ何かを外した音がした。

「でも私には関係ないことだ。もういいかな...」

 目を閉じた瞬間

 ピカッ

「ま、まぶしい」

「課長発見しました。猫発見しました‼」

 暖かく大きな手に包まれ私は外に出た。

「土淵川君の言う通りボイラー室でしたね。ここなら多少声を出されても音をかき消されますもんね。」

 この人たちは誰?

「私たちは警視庁呪殺捜査課です。もう大丈夫です。咲さん来て来て。」

 あれ、心読まれてる?

 咲さんと呼ばれ来たシャイな感じの女の子は、会釈をし私の頭を触った。すると、

「あ、れ声が出る。声が出るよー。みんなさん聞こえますか?」

「はい、しっかり聞こえてますよ。触れた生き物の言語を変えるのが咲さんの呪いなんです。」


 聴山 咲 職業:警察官 悩み事:一人暮らしの家と実家に動物があふれていること

     備考;呪い人。触れた生き物の言語を変えることができる。


「私たすかったんだ...。でも、猫から人には戻れないんですか?」

 安堵の中不安が芽生えた。

「わかりません。今土淵川くんに任せています。私たちも行きましょう。」

 土淵川?誰かわからないけど早く人間に戻らないと...

 私は抱えられながら階段を上っていった。

 この先は確か...

 ガチャッ ドアを開けた瞬間風が吹いてきた。

「やっぱりここは屋上こんなところで何してるのかしら。ん?あれは乙川さん?それと向かい合っている彼は...」

「土淵川くん。華子さん見つけましたよ‼読み通りボイラー室にいました。」

「あの人が土淵川さん。私を見つけてくれた人。」

 ダボっとした黒のスエットに片側が出た白シャツ、ちゃんと結べてない赤色のネクタイ。とても初見では、名探偵には見えない服装。それでも少しときめいてしまった自分がいた。

 よく見ると乙川さんめっちゃ危険なところに立ってない??あと半歩下がったら落ちてしまう。なんでこんな状況に?


 少し遡って何があったのか見てみましょう。


 華子が見つかる前。乙川は個室に呼ばれていた。

「私が呪いかけたのばれた?いやそんなはずないあの方は呪いはばれないって言ってたもん。それに私は何も悪くない。全部華子が悪い。」

 心臓の音がうるさい。今にも飛び出てきそうだ。

「なんで私がこんな思いしないといけないのよ。彼女が悪いのに彼女が悪いのに..」

 次の瞬間 バンッ 扉が勢いよく開いた。

「やあ!君が乙川千尋さんだね?」

 謎の男が出てきた。服装が警察に見えない。スタッフか何かかな...恐る恐る答える。

「はい。私が乙川千尋です...」

「単刀直入に聞く。君呪い人だね?能力は触れた人間を猫にするとかかな?そして、猫ノ宮華子さん失踪に関与している。だろ?」

 っっっっっななななnなんで知ってるの、呪いのこと。落ち着くのよ千尋。悟られないようにポーカーフェイス。ポーカーフェイス。

「知らないです。何ですか呪いって?それに華子ちゃんの失踪も何も知りません。そもそもあなた誰ですか?」

 ここは攻めるとき。逆に質問をして話を逸らす。

「自己紹介がまだでしたね。私は土淵川光世。警察に雇われた名探偵でーす。」

「逃げろ。」頭の中に響く。あの方からのメッセージ。

「にげろ。そいつは化け物だ。早く逃げるんだ。」

急になんだろう。でも、命令には従わないと。

「はい」

 乙川は逃げた。言葉にしたがい個室を飛び出した。ただ無心で走る。

「ええええええ逃げないでよー」

後から追いかける土淵川

「階段を上り屋上に行け。自殺するふりをして時間を稼ぐんだ。助けに行ってやる」

「はい」

 無心で駆け上がる。バンッ 扉を開けぎりぎりに立つ。

「くくく来るな。それ以上近づいたら飛び降りてやる」

 恐怖を抑え込み自殺のふりをする。普通の人間なら立ち止まり声をかけるだろ。

 普通なら。今回迎えに立っているのは土淵川だ。立ち止まらない。一歩一歩進んでいく。

「来るなって言ってるでしょ。本当に飛び降りるんだからね。」

「勝手にすればいい。私の仕事は事件の解決だ。君の生死など興味ない。それに君飛び降りる気ないでしょ。」

 図星だ。この人は本当に私の生死など気にしていない。どうして、私がこんなつらい思いをしないといけないの。私が何したって言うのよ。うざいあの女に天罰を与えただけ、時間がたったら戻してあげようと思ってたのに。なんなのよ。こうなったら攻めるしかない。私が会話の主導権を握る。

「そうよ。私は呪い人よ。私があの女を猫にして隠したの。」

「やめろ。事件の話はするな。もう少しだ別の話題で時間を稼げ!」頭の中に響く。

 でももう引くことはできない。だってまだ死にたくない。

「あなたが言ったと、」

 ガチャッ 扉が開いた。

 扉のもとには、絶対にいるはずない者のすがた。

「ななななんんであなたがいるのよ。」

 取り乱す乙川。

「土淵川くん。華子さん見つけましたよ‼読み通りボイラー室にいました。」

「私の推理が外れるわけないでしょ。記瑠気さん」

 笑顔の土淵川。

「どうしていつもあなただけいつもそうやってスポットライトが当たるの。いつもいつもいつもあなただけ。」

「落ち着いて乙川さん。落ちちゃいます。」猫の華子が叫ぶ。

「なんでしゃべれるの?猫がなんで日本語をしゃべれるのよーーーーーー」

 かなりの興奮状態。絶対に刺激してはいけない状況。この場にいるすべての人間がそれを理解していた。慎重に慎重に助けるために歩を進めた。

 ただ一人を除いては。

「ナーーんだ。嫉妬か。自分より目立つ猫ノ宮さんに嫉妬したのか。そして、ライブ直前に猫にして困らせてやろうとした。そんなところか」

 あくびをする土淵川。

「私を語らないでよ。あなたなんかに何がわかるのよ。どんなに努力しても追い付けない。絶望。ちょっと顔がかわいいだけなのに。どうしてどうして私にスポットライトが当たらないの。」

叫び散らかす乙川。

「お前の自分語りなど興味ないね。そもそも努力はできない人間がするものだ。自分が努力をしていることを表に出し、努力している自分に酔ってるお前を誰が好きになる?」

土淵川の言葉の矢が次々乙川に刺さる。

「そんなの私が一番わかってるわよ。華子ちゃんがどれだけ努力しているのかも私が一番わかってる。それでもそれでも」

 泣き崩れた乙川。その隙を見落とすことはなくすぐさま警察が確保。呪術使用及び誘拐罪で逮捕した。

「事件解決。私は帰る。」

 回れ右をし扉へ向かう土淵川ふと何かを思い出したのか戻ってきた。

「最後に君の呪い、人間を猫に変えるなんてあまりにも強力すぎる。なのになぜ呪捜のリストに載っていないんだ?一級レベルの呪いだぞ」

「たしかに何故だ。」呪捜の人間たちも疑問に持ち始めた。

乙川は泣きながら答える。

「この前開花したばっかなんです。華子の愚痴をネットに書き込んでたら、嫌がらせの方法を教えてあげるって言われて。この力をもらったんです。」

 この場に居合わせた人間に衝撃が走る。

「ありえない。呪い人は生まれた瞬間に呪われた人間だけのはず。それはある意味運命的なものであって、人工的に呪い人を作るなんてできるはずがない。」

 珍しく記瑠気が取り乱す。が、すぐさま興奮をおさめ、乙川の連行に取り掛かった。

「それでは署の方に行きましょう。」

 バンッ 一瞬のことだった。乙川が立ち上がった瞬間乙川の頭が吹き飛んだ。血と脳が屋上に散らばる。「え」「なななんだ」あまりに急なことで数人の隊員が慌て始める。「全員戦闘態勢」記瑠気の指示が飛ぶ。全員周りに注意を向ける。「発見6時の方向迎えのビル。スナイパーです。」隊員の一人が発見。

「赦さない」「え?」

 土淵川の冷たい声が響く

「罪人だからと言って使えなくなったからと言って人間を殺していい権利を誰が持っているというんだ。神が赦しても私は赦さない。」

 屋上が凍える。その刹那。突然の強風が吹き荒れる逃げようとしていたスナイパーはバランスを崩しビルから転落していった。

 不運なのかそれとも...


 事件は解決したものの犯人が死亡。猫ノ宮華子も無事発見救出されたが、人間に戻る手段はなく公にすると混乱を招くことから。未解決として幕を閉じた。


と思われたがこの事件にはまだ続きがあった。

それを覚えているのはごく一部の人間だけ。


 -現在-

 プルプルプルプル携帯が鳴る

「もしもし。光世先生?Purple Nagonについて面白い情報を見つけました。このサイトは匿名で自分の好きなことを書き込めるサイトです。佐竹のコメントもありました。そして、佐竹に接触を図ろうとしてた不審なアカウントも発見。

 アカウント名は‟為信”」

「為信だって?」

「はい、3年前の失踪事件の時急に屋上に現れた謎の男。私たちが追っている黒幕。5分間の記憶を消せる呪いの持ち主。特級危険犯罪者‟寺島為信”《てらじまためのぶ》ただの偶然とは思えません。」

「わかった。種里さんはそちらを引き続き調べてくれ私も今ちょうどついたところだ帝国病院に。」

「まさかあの人に」

「そうそのまさか、‟鹿林海”《しかばやしうみ》先生にあってくる。佐竹の死体から面白いものが見つかったらしい。それじゃまたあとで」


 電話を切り携帯電話をポケットにしまった。

「今回こそは絶対に逃さない。記憶を消されようが

私はお前を赦さない。」

 夏なのに異様に涼しかった。

事件はまだ始まったばかり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

殺人探偵のペットになりました。 @KingMatsuo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る