エキセントリック青年ＢＯＹＳ ｉｎ クレイジーキャラバン

１－３．５ ベルドゥラルタ商会のギルドオーナーは「エロい、ズルい、カッコいい」の三段活用が使える

　カダ湖畔、中継交易と農業を生業とする小国、それがカダ王国である。数百年の歴史を有する独立国であり、ローマ帝国とは友好関係にある。

　シフたちの一行はようやくこのカダ王国までやって来たわけだが、その最終目的地はアレクサンドリアである。

　旅の始まりは２ヶ月前、一行はアレクサンドリアを出発した。紅海を南進してアラビア半島の南部の港町フダイダまで行き、そこで受け取った荷物をアレクサンドリアまで持ち帰る、それが今回の仕事だ。

　受け取った荷物は小さく軽い包みで、厳重に封印が為されている。中身は知らされていない。

　道程も指定されている。往路は速度重視、海路を使用できて快適だったが、帰路は陸路を指定された。ローマ帝国の税関を避けるためだというが、本当のところはどうなのか、正直怪しいとシフは思っている。

　たしかに海路で紅海北部のスエズやアカバの港には税関があり、陸路でナイル河の上流から進めばそれが無い。

　しかし高額関税がかかるのは、宝石・絹などの贅沢品の他には小麦くらいしかない。受け取った包みは、宝石類にしても小さすぎて仕事として明らかに割が合わないから多分違う。それでも税関を避けろということは、ローマ帝国に知られるとまずいものなのだろう。税関では全ての荷物をチェックされる。賄賂で切り抜ける手もあるが、それも駄目なのか。危険な臭いがぷんぷんする。

　わけありの仕事という奴だ。普通こんな仕事は請けない。しかしギルドからは充分以上の金額が提示され、半額を前金でくれるという。話がうますぎる。こんな怪しい仕事を出すようなギルドではなかった筈だ。

　さらにいつもと違い、ギルドオーナーが直接依頼を持ってきた。ギルドオーナーとは十年ほどの付き合いになる。恩義もあり請けるしかなかった。

　ギルドオーナーは業界では珍しくも女でまだ２０代後半、挑発的な眼差しと男のような言動が印象深い。名をマリーダ・ベルドゥラルタ「お・ね・が・い♪」豊かな髪をかき上げて足を組み、立派な胸元を強調して上目遣い。役満だ。

　その横には絶対の忠誠を誓う屈強なガード（護衛）の直毛男（グラミーカヴ）が眼光鋭く直立不動。その眼が語る「貴様、手を出したら殺すぞ豚野郎！」と。

　シフは溜息「はいはい、しかたないですね、わかりましたよオーナー」

　マリーダ「こんな条件の仕事で悪いわね」

　シフ「うん、とりあえず、請けるからには要求があります」

　マリーダは当然のように頷く「聞きましょう」

　シフ「行きも帰りも結構危ない地域なので、腕利きのガード（護衛）が欲しいです」

　マリーダ「ガボルアを付ける」ギルド一番の凄腕だ。

　シフ「良いんですか？」

　マリーダ「ああ、構わないよ。というか最初からそのつもりだから。他にも足りないものがあれば全て言いなさい」

　シフはしばらく考える「メンバーは俺とスィラージ、ガボルアの３人で？」

　マリーダ「そうなるな。足りないか？」

　シフ「いいえ、フダイダなら行ったことあるし、帰りの山筋を抜ける道とかカダ王国も少しはわかる。急ぐなら旅慣れた男３人くらいの方が良い……かな」

　マリーダ「なら良いが」

シフ「船はスエズの高速艇を使わせてもらっても？」普段なら自前で乗合客船に乗るところ。

　マリーダ「許可する。たまには高い席を取りなさい」

　シフ「帰りは早めに上陸するとして、そこでラクダを買うか他の商隊にでも潜り込むしかないと思いますが」

　マリーダ「買いなさい。それも見込んで多目に経費を渡しておく。余ったら当然そちらの取り分だから。半金前払いと併せて帝国金貨２０枚（２００万円相当）で足りるだろう」

　シフ「マジですか。あまりに気前が良すぎて気持ち悪いな」

　マリーダ「だから……ちゃんと帰ってくるんだぞ」

　シフ「それ死亡フラグです」

　マリーダ「うふ、何を言ってんだか」

　往路、海風に恵まれ、予定よりもかなり早めにフダイダに到着、荷物を受け取った。

　帰路は早めに紅海沿岸に上陸した。上陸後すぐに西へ進みエチオピア山岳地帯の谷筋を抜け、砂漠地帯に出てからは点在オアシスを縫うように、北へ、ナイル河の支流を目指して進んでいる。

　道はあった。しかしローマ帝国の勢力が及ぶ正規の交易路ではなく、非正規交易路（イレギュラールート）である。正規の交易路と違いまるで整備されていない。強欲な独立系部族から通行料金を取られることもあれば、山賊や野獣に襲われることもある、不安定で危険な道だ。

　それでもここまでやってきた。カダ王国を超えれば、ナイル河までもう少し。船に乗れば相当遅れを取り戻せる。そういう目算でシフは旅程を考えている。

　この仕事を初めて聞いた時、スィラージはアニメ情報誌から顔を上げて「こいつはくせえっ！ ゲロ以下の臭いがプンプンするぜ！」シフの自宅横の事務所での一幕。

　シフ「あっはっは、そう言うなよ。やるしかない仕事ってのはあるだろう」

　スィラージ「逃げてえよな、逃げれるもんならな」

　シフは肩を竦めて「とりあえず使えそうなネタを突っ込むのはやめた方が良いぞ、要らん誤解を招くから」自分は元ネタアニメがわかるから腹も立たないが。

　スィラージ「長旅になりそうだな」シュッシュッ、何故かシャドーボクシングを始める男。

　シフ「準備を頼む」

　スィラージ「了解」

　国境の砦から街へ向かう途上、白い中型犬が暇そうにうろうろしていた。５００ｍほどの距離で視認。何となく近付いていく。尻尾が丸く巻かれ、耳は立っている。

　シフ「白いな」

　スィラージ「ああ、白いな」

　シフ「マジ白いな」

　スィラージ「ああ、白すぎると言っても過言ではない」

　シフ「……」何のオチも無く終了。

　近寄ると犬が興味深そうにこちらを見た。

　スィラージ「おおよしよし、良い犬だ」しゃがんで頭を撫でてみる。

　白い犬は（ああん？ なめんじゃねえよ！ この豚野郎！）いきなりガブリ！

　スィラージ「ぐはああああああっ！」

　ルシール「ぶ、あっはっはっはっはっはっはっはっは、あんた何いきなり噛まれてんのよ。最高だね」

　白い犬はワン（ふん、これに懲りたらもう調子に乗るんじゃないぞ）と鳴いて去った。

　シフ「……きゃ♪」とりあえず言っておく。

　それとルシールは部下ではない。途中の街でトラブルがあって仕方なく拾うことになった、正体不明の女である。