第2話 次に様式美。



 ここは何処だ、そんな事を言っていても何も始まらない。僕はそういうことに気付くのが遅い。うだうだとしがちだ。だが足が進み始めてからは速い。とりあえず何をすべきかを考える前に僕の足はここの小さな町の中心地へ運ばれていった。


 まずは観察だ、そう思い周りの人間をみると、やはり西洋人の出で立ちをしているし、着ている服は皮か植物の繊維のようだった。だが文字は不思議と読めた。町の中心の簡易的な地図が読めた。ご都合主義というやつであろうか。そういえば兵士にも言語が通じた。


「えーっと何々……スタトの町。マナーカ地方の始まりの地、と。ふーん……」


 ここがスタトという町で、マナーカという地方に属している。二度もこの意味を咀嚼する必要はたぶん無いけれど、とりあえず呟いた。


「あんた、スタトは始めてかい?」


「はい?」


 地図と勝敗で終わらないにらめっこをしていると、後ろから恰幅のいいおばさんが声を掛けてきた。赤茶の髪がふんわりとボリューミーで白エプロンが周囲の石畳に映える。


「スタトは始めてかいって訊いてるのさ」


「あぁ、すいません。始めてです。」


「そうかい、あんた名前は?あたしはそこの宿屋のおばば、イバっていうのさ。」


 太めの二の腕が揺れながら指先に情報を伝達したと見えて、その指の指す先には確かに宿があった。今日の寝床を確かに考えなくてはならなかったのでこのクジを引いたのはデカイ。

 名を訪ねられたがどうしようか、こういうのって、言い慣れ呼ばれ慣れた実名を伝えるべきか、同じように呼ばれ慣れた名……つまりニックネームやらペンネーム、早い話SNSで使っていたハンドルネームとかのほうが良いのだろうか。日本の言語が通じているのに甘えて実名でもいいのだが……。

 いや、もっと何か……のり…糊…のり……グルー?スターチ?ペースト?アドヒッシブ?…アドヒッシブ、ADHESIVE…これ良いな、英単語、アドヒッシブ。接着剤の意だ。アード・ヒッシブ。これで良いんじゃないか?


「アード。アード・ヒッシブです。」


「へぇ。変わった名前だね。」


「良く言われます」(始めて)


「アンタ、宿探してないかい?良ければウチにどうだい?安くしとく、一泊10イェンで良いよ」


 イェン、どうやらこれがここの通貨らしい。持っている覚えはなかったがとりあえず手当たり次第にポケットに手を突っ込んでみるとチャリンと鳴った上着。中からは銀色のコインが一枚出てきた。ダメもとで出してみよう。


「これで…」


「おっ丁度10イェンじゃないか、まいどあり」


 行った。運がいいぞ。

 どうにも今思い出したが、そういえば死んだ時羽織っていた…つまり今着ているこのGジャンのポケットにはなんかのお釣りの100円が入っていた。神の確認の甘いのか細かいのか。現世の物をこうやって変換して持ち込んでいいなら僕の持ってた財布くらいセットにしてほしかった。……100円宿って凄いな?


「ついといで。」


 僕は適当な返答をして、彼女の後を歩いた。





_________________

 







「ここ、使ってちょうだい。宿って言ってもここは辺境の田舎。始まりの地なんて大層な言い伝えがくっついてるけど、その理由は王家がここに昔あった村の血筋ってだけ。多くても一日に泊まってるのはせいぜい4人。今日はアンタ以外いないしゆっくりしてってね。」


 通されたのはちょっとボロめの部屋。多分他の部屋もそう変わらないだろうし、それに寝屋に困らないだけありがたい。ベッドはちゃんと干してあるらしくいい匂いがする。荷物はそこにとタンスを指差されたが、かばんくらいセットにして欲しかったぞ神よと願えど荷物は特に持っていない。そりゃあ兵士にだって怪しまれるわけさ、武器も商品的なものさえ持たず体一つでほっつき歩いているのだから。とりあえずイスに体預けようか、さて

「よっこらしぉおおおおおおっっっ!?」


 後頭部ぅぅぅぅうううっ!?セーフ!木組みのイスに腰掛けようかと思ったらこれだ!ドッキリ番組とかでよくある崩れるイス並の綺麗さでイスの足一本が音立ててバッキリと逝ってしまった。しまった。

 …しかし、これはチャンスなのでは?


 能力の使い所に迷っていたので試し撃ち(?)と行こうじゃあないか。

「ってもどうすりゃ良いんだ…えい、出ろ!」

僕がいい感じに叫んでみると、とりあえずで突き出した手のひらからでろりと透明感アリの白い液体が出てきた。

…えっ手のひらに白濁液ってそれ大丈夫?

「とりあえずここに付けてみるか…」

これが小説ならBANされそうで気を取り直せないが取り直した事にして、さっきポックリ逝ってしまわれたイスの足の断面にべっとべとの手を近付けて、そののりを塗る、でそのまま接合。適当に想像したのりがボンドだったからなのか、ボンドっぽいのがでろでろ出てくる。気持ち悪っっっっっっっ。


「のり引っ込め!」

 言えば手のひらに出たのりは引っ込む。イスはいつの間にかしっかり固定されている、速乾性お化け過ぎない?瞬間接着剤だったの?アルンアロファだったの?ってかのりっていうか接着剤の能力なのこれ?ほんとあの神のオッサン適当だな、適当神オッサーンって名前に改名しやがれ。


「大丈夫かいアンタ!?」


 さっきの物音がまぁ中々うるさかったようで、イバさんが慌てて登場だ、もうちょい早く来てもいいと思うよ、うん。


「いやすっかり忘れてたよ、そのイスもう古くて捨てようかとも思ってたのさ。折れたかなんかした……わりには綺麗になってるねぇ?」


「あー…直しました…と言っても、のりでくっつけただけですけど……」


 ごめんちょっと語弊があるわ、のりっていうか接着剤だった、ごめんね。


「へぇ、大工かなんかなのかい?そういえばアンタの職業訊いてなかったね。」


「家具直すとか…それくらいなら……」


「本当かい!?……よし、お駄賃は弾んであげるから、ウチの家具のボロいの、直しておくれよ!ちゃんとお駄賃弾んであげるから!」


 二回も言ったねお駄賃弾み。しかし収入があるとは超ラッキーだ。手に職を付けられたわけだ、のりで接着出来ちゃったぞラッキーだ。

 二回言ったぞラッキー。

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