第7夜 「ボイスチャットスペース」
……皆様ごきげんよう。案内役の "まほろ" でございます。
今宵も「
今や老若男女問わず、コミュニケーションツールとして定着しているSNS。
最近では機能も多彩になってきているようですね。
今宵のお話は、そんなSNSの機能ボイスチャットスペースを楽しんでいる主人公、H.N.
果たして彼らのスペースで何が起きたのでしょうか? その果てに彼らがした"選択"とは?
それでは今宵の「
◇
「だから黒豆ごろーさん、またそんな所弄り出すと止まらなくなるんだから……イベントまで1週間だよ!?」
「これは、完成品は次イベントで! って流れですかねw」
「いやいや、次で済めばいいけど、イベント3つくらいその流れで引っ張るんじゃないですか?」
「出来る出来る詐欺www」
「何それ、銀○より酷いじゃんwww」
……俺の名前は常吉。と言っても本名ではない。これはネットで使っている、いわゆるハンドルネームってやつだ。
週末の夜恒例で俺が開設している、SNS内のボイスチャットスペース。同じプラモデル制作が趣味のフォロワーさん同士で集まってはこうして雑談するのが最近の楽しみだ。
今話しているのは、来週に控えたフォロワーさんのSNS内プラモデルイベントの話題で、先週のスペースで参加表明をしたH.N.黒豆ごろーさんが、作品の
この黒豆ごろーさん、改造技術がピカイチで "ゴッドハンド" の異名まで持っているのだが、いかんせん弄り出すと止まらなくなる癖があり「ここも気になる、あそこも気になる」と、際限なく改造しまくってしまうのが玉に
確かにそうする事で完成した作品はゴッドハンドの名に相応しい素晴らしい出来だし、出来る事ならとことん
しかし、世の中には"締め切り"というものがあるのだ。
ましてや先週、「イベントまでの2週間で仕上げられるキット」という条件で皆でセレクトした出品キットなのに、結局いつものビョーキが発動して完成が危ういというのだから、全員からツッコまれまくるのも仕方ないというものだ。
「そういえば "金星の魔女っ娘" ですけど、新商品Bって結局あれですかね〜」
「あ〜、まだ見てない人いるからその話はネタバレ厳禁ね!」
……うちのスペースはなかなか濃い面子が揃っている。
まずは我がスペースのペースメーカー、H.N.夜神楽さん。小気味良いツッコミと嫌味のない毒舌が、とかく脱線しがちなトークを安定した笑いへと誘導してくれている(と俺は思っている)。
以前、うちの嫁が酔った状態で飛び入り参加した時は「名前が読めない人」と言われてしまった事がある。てかフツー読めるだろ……
更にH.N.リールさん。本人は至って普通に話しているはずなのだが、何故かその内容が皆に大ウケしてしまう。
釣りが好きで、彼が発端となり元釣具屋店員でもある俺が受け応える釣りトークがスペースの名物コーナー? になっている。
黒豆ごろーさんをはじめ、スペース内にも彼のファンは多い。
今週は更にH.N. 百鬼丸さん、所長さん、京さん、K'さんが実際に声を出してトークするボイスメンバーとして参加してくれている。
また、ボイス参加はしていないが、デルタ者さん、金Takoさん、LAYERさん、牡蠣さん、メソさん、ちまきさん、リバレーさん、入り猫さん等々、リスナーさん達もリプライ欄にコメントを寄せてくれている。
その後もリスナーのMoeMoeさんの誕生日のお祝いトークや、うみんちゅさんの発言からド○クエのはぐれメ○ルの話題になったりと、相変わらず無軌道なトークで盛り上がっていると……
「今夜はホラー展開、ありますかね〜?」
誰かがポツリと呟いた。
……あ、その話題、行っちゃう? いや、確かに今日のスペースのサブタイトルにも入れたけどさ……
…………
……
……実は先週のスペース中、不意にどこからか女性の歌声が聴こえくるという、ちょっと不思議な展開があったのだ。
ちょうど嫁が入浴中だったのと、スピーカーというよりうちのリビング奥から聴こえた気がしたので、てっきり嫁の鼻歌かと思い、嫁が出てきた後
「歌声、皆に丸聞こえだったぞ」
とツッコんだ。しかし、それに対する返答は
「え? 歌なんて歌ってないけど」
だった。
更にそれまでリビングで寝ていたうちのワンコが突然飛び起きて何もない中空に向かって激しく吠え出した。
……ちょっと待て! なんだ、その誰かが書いたweb小説みたいなシチュエーションはっ!?……
結局うちのわんこはすぐに我に返ったようにキョロキョロした後、また寝てしまったので、きっと寝ぼけていたのだろうと結論付けた。
その後スピーカーからイビキらしき音が聞こえたけどボイスメンバーは誰も寝落ちしてなかったりと不可解な現象が起きて、ちょっとしたホラー展開だったのだ。
もっとも特に怖い雰囲気という訳でもなく、仕事が早い事で定評のあるリスナーのキツツキさんが即座にジュンジ・イナガワ氏の画像をリプ欄に貼ったりと、変わらず笑いに満ちた夜だった。
…………
……
「結局、先週の歌声は気のせいだったんかねぇ」
「いや、俺にも確かに聴こえましたよ?」
ん〜、やはり今夜はこの話題は避けられないか。
そして、なんだかんだと季節外れのホラートークへ……
「そういうのは病院では日常茶飯事ですよ」
「後ろから呼ばれて振り向いたら誰もいなかったり」
病院勤めをされているリスナー、ReikAさんがさも何でもない事のようにガチ過ぎるコメントをくれたり、百鬼丸さんや黒豆ごろーさんの実体験や霊感話で盛り上がっていると、新たなスペースへの入場者のお知らせが鳴った。
「あっ、フォロー外の方やね。"まほろ"さん? いらっしゃいませ〜」
「いらっしゃいませ〜」
「っしゃいませぇ〜!!」
……誰だ、やたら野太い声で言ったのは!?
『こんばんは、お邪魔致しますね』
凄く丁寧な文面でリプを入れてくれた "まほろ" さん、アイコンが着物を着た綺麗な黒髪の女性というのも
引き続きホラートークに戻り、再び先週の歌声は何だったのか? という話に戻ると "まほろ" さんからリプが入った。
『面白いお話をされていますね? そういえば私もこんな噂を聞きましたよ』
「噂ですか? どんな噂です?」
興味を持った俺が反応すると、皆も興味津々といった反応だった。
「え〜? もう話題変えません?」
唯一、黒豆ごろーさんだけが及び腰だったが、構わずに続きを促した。
「こんばんは〜♪」
皆が固唾をのんで "まほろ"さんのコメントを待っているタイミングで、たまにボイス参加もしてくれるレギュラーリスナーの
「恋子さん、このタイミングっスかぁ?」
何も知らない恋子さんに夜神楽さんの容赦のないツッコミが入る。
恋子さんは筆塗り塗装を得意とするプラモ女子で、今年のエイプリルフールにアプリを使った男装写真をネタでUPしたら、一瞬で女性フォロワーさんが200人近く増えたという伝説を持っている。
「あ、すいません "まほろ"さん、改めてお願いします」
所長さんがすかさずフォローを入れると共に、俺が恋子さんに経緯を説明し、再び "まほろ"さんのリプを待った。
『そんなに改まらなくても、たいした噂じゃないんですよw 』
『ただ、最近スペースにメンバー以外の声が入ってきた、という話がよくあるそうです』
「まじですか?」
京さんが反応する。
今日は来ていないが、今キツツキさんがいたら間違いなく速攻でMr.ジュンジの画像が炸裂していただろう。
『ここからが肝心な所ですが……』
『実際に話しかけられたグループもあるそうなんです』
「いやいやいや、それってガチなやつじゃないですか〜、やめましょうよぉ〜」
黒豆じろーさんが尚抵抗するが、ここまで聞いてしまったら最後まで聞かないとむしろ寝覚めが悪い。
「それで……話しかけられたグループはどうなったんですか? まさか、呪われてしまうとか……」
『詳しくは存じませんが、選択を間違えてしまった為に"恐ろしい目"に合ってしまった、と証言しておられる方がいるそうですよ』
「怖っ!」
「選択って、何か質問でもされるんですかね?」
とはK'さん。
「先週、歌声が聴こえたし、我々ヤバいんじゃないですかね? 目をつけられているかもですよ?」
「やめましょうよ〜、夜神楽さん〜」
「俺、ユーレイでも可愛い女の子ならアリですよ? ただし巨乳に限りますけど」
……今の発言の主が誰かは、敢えて語るまい。
『何事も起きなければいいですね、それでは私はこれで……』
「あ、お疲れ様でした〜、情報ありがとうございます」
「っしたぁーーっ!!」
……だから野太い声はやめなさいって。
おっと、"まほろ"さんのフォロー忘れないでしとかなきゃ……
「さて、どうする? このままスペース続ける?」
「でも、これで止めちゃったら今後やりにくくなっちゃいますよね」
「だから可愛くて巨乳ならOKです! あ……髪型はショートかポニテで」
「でも、選択って何すかねぇ? 間違わなかったら逆にどうなるんすかね?」
すったもんだしているうちに、リスナーのキリトさんからリプが入った。
「それじゃ、自分はそろそろ失礼しますね、お疲れ様でした〜」
「あ、お疲れ様でした〜」
「あれ? ログアウト出来ない」
「ん? また不具合ですか? 何だったアプリを閉じて貰ったら」
「いや、それも試したんですが、アプリも終了出来ないんですよ」
「いやいや、どこかのオンゲーアニメじゃあるまいし、冗談はH.N.だけにしてくださいよ、キリトさん」
……さすが夜神楽さん、ツッコミに容赦がない。
「いや、マジですって! なんで!?」
「ちょっと試しに落ちてみますね……あれ? 俺もダメだ。これ、ヤバくないですか?」
黒豆ごろーさんもボイスメンバーを代表して試してみたようだったが、ダメだったらしい。
「一旦スペース閉じるよー!」
俺はそう宣言し、終了ボタンをタップしたが反応しない。もちろんアプリを閉じてホーム画面に戻る事も出来なくなっている。
「これ、マジでやばいやつかも……」
「まさかのリアルSA○」
「いや、冗談言ってる場合じゃないでしょ!」
「リスナーさんも出られない?」
ダメ元でもう一度確認してみるとうみんちゅさんから返事。
「ダメみたいです」
はぐれ○タルでダメなら、もはや絶望しかない。
そして、不意に全員の音声が途切れ途切れになると、先週聴こえたあの歌声が今度はハッキリとスピーカーから聴こえてきた。
「常吉さん……」
「うん、聴こえてる……」
……これはガチでヤバい……自分だけならともかく、参加者さんを危険な目に遭わせるわけには。
(ねぇ……)
遂に話しかけられてしまった……どうする?
(聞こえてるんでしょ?)
ヤバいヤバいヤバいヤバい……
(ねぇってば……)
「霊は自分を認識してくれる人にすがろうとするんです。こういう時は、"自分には何も出来ないから" と念じるんです!」
「それ、もうやってます〜」
(聞こえてるのはわかってるから)
「と、とりあえず無視して普通にトークを続けましょう! きっとそのうち諦めますよ。絶対返事したらヤバいやつですって! ほら、選択が大事って!」
……そうだ、選択だ。でも、本当に無視が正しい選択なのか? そんな誰でもやりそうな事が正解なんだろうか?
「いや、ここはあえて返事してみない?」
俺は意を決して皆に提案した。
「ちょっと、何言ってるんですか常吉さん〜!」
俺は続ける。
「だって、この時点で落ちたりアプリ閉じたり出来ないって事は、無視は多分、悪手だと思うんだよ。そもそも大概の人らが選びそうな手だし」
「確かに……」
「でも返事してどうするんすか? 返事する事自体が正しい選択ならいいですけど、そこで何か質問やらの選択肢を突きつけられたら……」
「そこはやってみないとわからないな……成仏に協力して、とか言われたら面倒だけど多分それはないと思う。だって、それが正しい選択ならユーレイさんはもう成仏してるはずだし」
「あっ……」
「いやいや、成仏させるのが無理だから、出来なくて皆恐ろしい目にあったって事も」
「だから、条件を付けて話しかけようと思う。さっきの話じゃないけど、"あなたに協力する事は出来ないけど、話を聞く事だけなら出来る"って」
(私はただ、話を聞いて欲しいだけだよ……)
俺達の会話は当然聞こえているようで、早速ユーレイさんから反応があった。どうやら"話を聞く" が正しい選択で間違いなさそうだ。
「まっ、仕方ないっすね」
「怖いけど他に手はなさそうですしね」
「聞いての通りです。俺達は話を聞く事だけは出来るけど、それ以上の事は出来ない。それでいいですね?
(ありがとう……うれしい……)
こうして俺達は、ユーレイさんから話を聞く事を選択した……
…………
……
…… 4時間後、AM2:00……
……
…………
(でね! でね! 聞いてくれる〜? 彼ったらさぁ、結局お参りに来てくれたのは一度っきりで、もう新しい彼女作ってるんだよ〜! ひどいと思わない?)
「はぁ、そっすね……」
(ほんっと呪い殺してやろうかしら!)
「その話、もう5度目……」
(ん? なんか言った?)
「い、いえ、何でも! どうぞ続けて下さいっ!」
(それでね、あたしが死んだ時の話なんだけどぉ〜)
「常吉さ〜ん……俺、明日仕事なんすよ、どうしてくれるんすか〜?」
(だ〜いじょうぶ! 1日くらい徹夜しても死にゃしないわよ! 死んでるあたしが言ってるんだから間違いない!)
黒豆ごろーさんの絶望のため息が響いた。
「ホント、ごめんね」
……これは、選択を誤った、のか!?
「常吉さん、俺、眠気限界です……」
「リールさん、寝ちゃダメだ!」
今にも寝落ちしそうなリールさんと必死に止める所長さん。
「……グォォォーーー……」
(くぉらぁっ!! 誰よ寝落ちしてるのーーっ!? 呪い殺されたいのっ!?)
「百鬼丸さん起きてーーっ!!」
…………
……
……こうして、
◇
……今宵の
……それではまた、次の夜にお会い致しましょう。皆様、おやすみなさいませ……
幻話 〜まほろば〜 ツネち @tsunechi
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