空色の通学路

Cipec

第1話

「さて、そろそろ行くとしますか」


 自宅に置いてある愛用の自転車のハンドルに手をかけて玄関を抜けて通路に出る。


「あ、いたいた。おーい樹!」


 突然自分を呼ぶ声が聞こえてきたので振り返ってみる。


「空……お前バス通学のはずだろ?なんでいるんだ?」


「え、えっと……寝坊しちゃって」


「朝が強いお前でも寝坊するんだな」


「うん。だからさ学校まで乗っけてくれると嬉しいな」


「いや、自分の自転車使えよ」


「別にいいじゃん。家隣なんだから関係ないって」


「理由になってないんだが……まあいっか、乗れよ。荷物はカゴに入れて構わないから」


「うん、ありがと」


 今荷台に腰掛けているロングヘアの美少女の名前は鈴野空。お互いの両親の仲良く家が隣同士の幼馴染。


 小さい頃から一緒にいて、いつも隣にいた。空にはいつも振り回されていた記憶しかない。


 でも年が進むに連れて可愛くなってきて、いつしかみんなの人気者になっていた。


 何も取り柄もない俺とは月とスッポンぐらいの差だ。それでも空とは喧嘩することなく仲良くやってきた。


 この状況下の中で一つの考えが脳内を駆けた。


「このままだと俺死ぬんじゃね?」


「えっ?どうしてこんなの当たり前のことじゃない」


「これを当たり前の一言で片付けるなよ」


「何よ。これより凄いこと沢山したじゃない」


「主に俺は被害者なんだけどな……あと、その言い方やめろよ。周りに勘違いされるだろ」


 事ある毎に空は俺を巻き込んでくる。


 去年の体育祭の借り物競走では『気になる男子』のお題で俺を選んだり、文化祭のときは二人で各クラスの出し物を周ったりした。もちろんしっかりとした理由がある。


 体育祭のときは「知り合いの男子が樹しかいないから」で、文化祭のときは「幼馴染なら当たり前のこと。それに男避けにもなるし」と半ば強引な理由ではあるが別にありえない話でもないので承諾した。それくらい空は人気者なのだ。告白された回数も少なくない。でも告白は全部断っていると聞いている。


 他には何度か弁当を作って貰ったり、バレンタインには毎年手作りチョコを貰ったりしている。それを断る理由も特にない。


 お礼として誕生日プレゼントにはアクセサリーを贈った。好意はない、単なる幼馴染へのお礼の気持ちだった。なのに貰った空は頬を赤らめていた。


 あの一件以来、クラスの男どもからは殺意を抱いた視線を女子からは淡い期待を込めた視線を向けられている。


 全く、早く落ち着いてほしいものだ。それが最近の悩みの種。


「樹は進路決めたの?」


 荷台に腰掛けている空が突然そんなことを聞いてきた。


「今のところは理系大学に進学かな。空は?」


「樹と同じで理系大学に進学のつもり」


「ふーん、そうか」


「何よ。私の進路興味ないの?」


「いやさ、進学校なのに就職は普通しないだろ?個人的な理由があるなら別だが、それにお前が就職するイメージないし」


「えっ?それだけ?」


「そうだけど……」


 その答えにため息をされた。ため息される意味がわからないので思わず首を傾げた。


「全く鈍感なんだから……」


「ん?何か言ったか?」


「別に何でも……それより急がないと遅刻するよ」


「それもそうだな。遅刻だけは勘弁願いたいね。悪いが少しスピード上げるぞ」


「うん、分かった」


 空色に包まれた空間は二人を連れたまま果てしなく続いていく。

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