灰色

白川津 中々

 転がっている死体には顔がなかった。

 首が飛ばされているわけじゃない。目玉を抉られ、耳を削がれ、鼻を潰され、唇を切られたのだ。口には石が詰められ、歯は全て折られている。全て、生きているうちにやられたのだろう。


 その傍らには女と赤子の死体があった。女の腹は掻っ捌かれて自身の頭が入れられていて、子供は杭に突き刺さっている。


 昔、この国の人間は他国の人間を同じような目に遭わせたらしい。なんとか事件だか大虐殺だか忘れたが、ともかく、人畜生な真似をしたと聞いている。事実かどうかは俺の知った事じゃない。


 戦後支配されて数ヶ月。破壊の限りを尽くされた都市は死に、国は滅びた。かつて栄華を誇った大都会も、今では漫画で見るような退廃的な光景が広がるばかりで、死体と瓦礫以外に何もなく、住んでいた人間は逃げたか捕まったか、あるいは、遊ばれて死んだかである。


 虐殺や拷問は条約違反だというが戦争なんぞをやっている人間がそんなもの守るわけがない。極限に追い込まれればそりゃ理知なんざ飛ぶだろう。批判する奴は平和ボケしているだけだ。益があろうがなかろうが人はとことん残酷になれる。男は酷く殺され、女は犯されたあと酷く殺される。倫理道徳なんてものはテレビ用の宣伝でしかない。間に受ける奴は馬鹿だ。


 世界ではとうとう核の撃ち合いをするそうだ。人類の多くは死滅するだろう。非現実的なでき事が淡々と起こっていく。人間はもう少し頭がいいと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。


 だが、いいさ。死んでやろう。元々生きたくて産まれてきたわけでもなし、今更命に未練もない。惜しむらくは、女を知らずに死ぬ事か。もし未来があって前世があれば、その時に、期待しよう。




 空が光った。あぁ、これが終りか。



 ……

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