ゾンビになる前に
淡麗(あわいうらら)
第1話
僕は今、ドラム缶を被って歩いている。
視界は1センチかけ4センチほどの小さい窓だけだ。人の手がギリギリ入らないサイズになるように自分であけた。
ドラム缶の内側とドラム缶の上にはレンガやブロックがくくりつけてある。倒されたりしないように工夫した、つもり。
「うわっ」
反射的に自分の口を塞ぐ。ドラム缶の外から大勢の呻き声が聞こえる。缶の外側からガンガン叩いたり引っかく音が缶の中で響く。
倒れそうになったドラム缶を必死で抑える。缶の底が地面と平行になっているのを確認する。ここから光が漏れたら最後だ。それは絶対に阻止しなきゃいけない。
口を抑える手から自分が震えている。思わず、涙が溢れた。高校二年になる今まで、記憶している限りでは恐怖で泣いたことなんてなかった。今は、大声で泣いて、外から聞こえてくる呻き声を消し去りたかった。
だけどそんなことをするわけにはいかない。短く、薄く、慎重に、呼吸を整える。なかなか落ち着かない。涙も止まりそうにない。
でも、もう引き返せない。もう、やるしかない。
つい2時間前の自分に会えるものなら言いたい。お前、絶対後悔するから家を出るな。
ゾンビになる前に 淡麗(あわいうらら) @chuu2
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