聖女と大魔王の関係は爛れていなかった!

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 結論から言うと、この世界の聖女は大魔王に敗れた。

 人と魔族がぶつかり合うこの世界で、人間界最強と呼ばれた聖女マリーアは大魔王ギュストを倒すべく艱難辛苦を乗り越えて魔王城に辿り着いた………………が。




 『惨敗』

 大魔王の圧倒的な力と叡智の前に聖女は敗れ去った。

 『愚かな人間共。お前達の聖女は我が前に敗れ去った。

 最早お前達に勝機は無い。大人しく、我が沙汰を待て。』

 大魔王は人にそう言い残し、玉座の間に消えていった。

 人間は何時全てを貪られるかをビクビクしながら過ごし、滅びの時を待つしか無かった。

 「聖女がやられた!」「もう我々は御仕舞だ!」「聖女様がいなくなったら私達は如何すれば良いんだ!」

 聖女は、そんな民草の言葉を知る由も無かった。





 「クククククク…聖女マリーア、覚悟は出来ているな。」

 「えぇ…、ギュスト。もう、抵抗はしません…………。」

 「良い覚悟だ。では……………」

 大魔王のどす黒く、赤い液体が滴った禍々しい腕が聖女へと伸びる。

 聖女は覚悟を決めたと言いつつ、その目は固く瞑られ、震えていた。

 大魔王の指先が聖女の顔を…………








 ビチャ

 「やーい!マリーちゃん5連ぱーい!」

 大魔王の指が聖女の頬に赤い絵の具でバツ印を付けた

 「もぉぉおおおお!ギュストったらぁぁぁ!大人げないぃい!」

 全力で悔しがる聖女……聖女?が、そこに居た。

 

 《魔王城玉座の間》

 聖女と大魔王はその中で爛れた関係を築き上げていた。

 そう、要は、遊びと怠惰を貪っていたのである!



 「この大魔王VS聖女のゲーム、難しいぃぃい!」

 「そりゃそうだよ、この大V聖ダイバーセイは魔王の国が作り上げた最高峰ゲーム。

 プレイヤー総数はこの国の8割、プロプレイヤーまで居るんだから。」

 目の前の盤上の駒を、互いに俯せになって互いの顔と駒を見つめていた。

 「んー………次はそのキュートおでこに『肉』の字を描こうかなー?」

 「ぐぬぬ………次こそは勝つ!」

 マリーアが駒を定位置に戻し始めた。

 その笑顔はここに来た時に見た顔とは全く違った。

 玉座の間に来た時の彼女。

 栄養失調、汚れた服、肉体・精神状態が既に死んでいたと言っていい。


 僕は人間と争った試しは無い。だと言うのに、人間の為政者は我々を悪と断じた。

 その筋書きは都合が良いから。

 悪役に対する善として『聖女』を作り、そこに彼女を押し込めた。

 政治の道具にされた少女。聖女。

 ここでは君は聖女じゃない。だから安心してマリーアでありなさい。

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