完全(犯罪)な聖女
黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)
第1話
「聖女様!」「ありがたや…」「最近流行りの疫病を治したらしい」「なんと高貴な」「そんだけじゃねぇ、あちこちで炊き出しをしてきたってよ」「どうか我らに救いを」「素晴らしいかたじゃ」「まさに聖なる乙女よのぉ。」「対して勇者ときたら………」
王都の道行く人々が、私に頭を垂れて口々に賞賛の言葉を口にしている。
私が流行した病を沈めて、炊き出しをしたって事で聖女を妄信する傾向が拡がっている。
今迄活躍していた勇者が消えた事で、そのお株を奪って私に信仰が集まっている。
見えるものは光り輝く瞳ばかり。
「心安らかに、祈り待っていて下さい。」
そう言いつつ笑みを浮かべ、聖堂内へと向かった。
私は聖女である。
現在のこの国の国教が認めた聖なる乙女。それが私である。
でも、そんなんじゃない。
私は、そんな聖なる乙女なんかじゃない。
聖堂内の一室。
人気の無い物置の棚の裏の隠し扉を開ける。
隠し扉の先に広がるは、この都市の暗部。
殺人鬼、詐欺師、殺し屋、闇奴隷商、マフィア、呪術師、闇商人が一同に介していた。
そんな最中に聖女が足を踏み入れた途端。
「お帰りなさいませ。ボス。」
その場の悉くが聖女に向けて頭を垂れた。
「状況は?」
私が尋ねると、
「新型の細菌は予想通りの効果を発揮しました。」
闇医者が答える。
「ならば複数都市に広めて治療薬を売りなさい。
他の細菌と臨床試験を必要とする薬の方の準備も進めなさい。
次は?」
「勇者の件ですが、本物を騙して奴隷にしつつ、」「偽者を本者に仕立て上げました。」
詐欺師と闇奴隷商が答える。
「勇者の持っている情報、財産全てと強さの要因を絞り出した後、好事家に売りつけなさい、偽勇者は王国やその他都市中枢に潜入させて情報をリークさせなさい。
次は?」
「聖女様のお陰で我が商会の評判は鰻上り
飢饉の食糧代という名目で資金洗浄も出来ました
嗚呼有り難や。」
闇商人が笑いながら言った。
「新型呪術の成功。
隠密、広範囲、強効果。
改良忠告、感謝。」
呪術師が目を逸らしつつ頭を下げた。
聖女はそれを聞き、笑っていた。
「宜しい、では、洗浄した金は此方に回しなさい。
さあ、派手にこの国を壊しなさい」
私はボス。
この国の暗部を纏め上げる悪の頭目。それが私だ。
この国の暗部の全てを掌握し、操り、弄ぶ。
それが私。
嗚呼、正義の矮小さよ。
嗚呼、悪の何たる容易さよ。
何が聖女だ!
何が聖なる乙女だ!
お前達全てを、私は許さない!
完全(犯罪)な聖女 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika
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