閑話②

そろそろ梅雨が始まりかける5月下旬頃の放課後、部室棟で迷子になった。

本多先生の手伝いで使われていない部室の備品確認をした後、一人で下校しようとしたのだが…見事に遭難してしまった。


朝子殿達に助けを求めようと考えたが、彼女らは用事かあるという事で既に下校済み。真神殿達も留守電…。吾妻先輩は…余計ややこしくなるから止めておこう。

そしてこういう時に限ってメアリーちゃんが辺りに張ってない。今度鞄に吊るしておくか。

そう考えながらウロウロしていたせいで余計迷ってしまった。

既に本多先生が居るであろう空き部室へ戻る事も出来ない。本気でヤバいな。


『この世界で何を求めようとしている?

ここは既に終演エンディングの先にある世界、ある男が無限の時を使い愛しいひとを死の運命から救い出した…その願いの先に存在する場所――』


この先の曲がり角辺りから声が響いてくる。

誰か会話しているのだろうか?


嗚呼あぁそうか、だからこそ追おうというのか。運命に翻弄されし八匹の犬、世界を呑み込める大蛇。それらを集めてまで…。』


なんか途轍もなく物騒な事を言っているが、大丈夫か。

興味と言うか、ほぼ怖い物見たさで声のする教室へ足を踏み入れる。

夕日に照らされた教壇しかない教室の真ん中にポツンと人影があった。


「うん。待ってたよ、キミの事を。多分そろそろ出逢えるんじゃないかと思ってた」


背筋をしゃんと伸ばしてこちらを見据える、恐らくは上級生だろう。待っていたと言うその言葉に不思議と真実味がある。


「えっと…なんかかなり物騒と言うか、非現実的な会話をしていたのが聞こえたもので」

「ああ、ソレはーー」


少し挙げた彼女の手に丸められた冊子が握られていた。何かの台本…かな


「一人芝居の練習だね。ここだと気兼ねなく練習できるのでね」

「なんだ、お芝居か……。」

「ふふふ…本当の事だと思ったかね?」


悪戯っぽく笑われる。


「いやいや、信じてもらえたなら役者冥利に尽きるものだよ…さて、我が劇団“夜行列車”へようこそ。私は団長を務める3年の坂本と言う。」


「夜行……列車?」

「良かったら覗いてみるかい?」


そう言い、坂本先輩は四角い紙切れを手渡してきた。


「これは?」

「フフッ、何処に行くにも切符と言うものは必要だろう?――では、1名様ご案内〜。」


パチンと指を鳴らすと教室の窓側の一角に置いてある自動改札機の電源が付いた様だった。

なぜ改札機?

その先は壁をぶち抜いて外に続いているようだった。


「さぁ、切符を差し込んでくれ給え」


坂本先輩に促され、改札機にさっき渡された切符を差し込むとゲートがパタンと開いた。

続いて坂本先輩がカードのようなものをかざすと同じくゲートがパタンと開いた。


「団員はICカードを使って入るんだ」


壁をぶち抜いた先には昔の鉄道の客車がホームのような空間に鎮座してあった。

坂本先輩が客車の扉を開けながら微笑む。

青い車両の下側に少しかすれた文字で【オハフ33 xxx】と白く描かれれていた。


「この車両は廃棄されるはずだった物を前団長が鉄道会社からもらい受けたものでね、理事長にお願いして部室兼劇場としてここに置かせてもらっている」

「――だから、夜行列車なんですか?」

「そうだねぇ、人の生き方って旅みたいな物だからと言う意味もあるみたいだ」


客車の中に案内される、内部はホーム側の座席が取り払われており反対側は木製の座席が向かい合わせに設置されている。

その一席に坂本先輩が腰掛ける。


「ここから見る夕日と海は絶景なんだ。君も見てみないか?」

「……。」


先輩に促されて向かいの席に腰掛け、窓の外に目を向ける。

丁度、遠くの水平線に日が沈みかけておりその風景はとても言葉に表現できないものがあった。

今まで同じような夕日を見てきたと思うが、一生忘れられない景色だと直感的に思った。

その後、坂本先輩に昇降口まで送ってもらい、帰り際にもしよければと入部届を渡された。


『“君達”となら面白い舞台が作れそうだ、気に入ったらぜひ来てくれ』


少し薄暗くなり始めた帰り道にそう言い残して…。


「君達って、私の他に誰かいたのかな…。」


私はそう独り言ちし寮への帰り道を急いだ。

少し湿った風が鼻元を優しくくすぐっていた。

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Is Life Beautiful ? 竹屋 智晶 @Ch_takeya

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