閑話

閑話①

4月のある週末、何故か朝子殿と千景殿が私の部屋に泊まることになった。


表向きは片付けの手伝いらしいが本音は別の所だろう。

何をされるのか少々怖いので待ち伏せしていたメアリーちゃんを捕獲し連れて行く事にした。この方がまだ安全だろうと踏んだからだ。


「早乙女ちゃん、ちぃーす。今日はお世話になるよん♡」


第3学生寮の玄関横、カウンターに座っているタンクトップにジャージの女性……この女子寮の寮長、早乙女郁さおとめいく寮長に朝子殿が勢い良く叫んだ。

……あれ? 既視感デジャヴ


「なんだ? 新原と聡宮。お前ら仁科のトコ泊まんの? 第2の寮長に外泊許可は取ってんのか?」

「勿論、事後承諾だよん♪あの人の弱みを2、3握ってるからむしろ無許可でも大丈夫♪」


清々しい程下衆い事を言う朝子殿に早乙女寮長は半ば呆れ顔になっている。


「勘弁しろよな〜、後で怒られるのはアタイなんだからさ」

「大丈夫♪ 早乙女ちゃんを怒れる人なんてこの学園内で葎っちゃん先輩しか居ないじゃん」

「でもよォ……ちゃんとルールは守れよな」


朝子殿と早乙女寮長の二人が玄関口でガヤガヤしていると反対の扉からチョコチョコと何かがこちらに向かって来た。

見た目は小学生くらいの男の子だが、彼こそ男子寮の寮長である佐藤葎さとうりつ寮長である。


「あれれ〜?チカちゃんとサコちゃんどうしたの〜?」

「おー、葎っちゃん先輩良い所に……実はあゆちゃんの部屋にお泊りついでに色々と物色……もとい、荷物整理を手伝おうと思って来たのですヨ。」

「ふ〜ん……明日は土曜だしお泊りは良いんじゃないのかな? アユちゃんまだ此処に慣れてないだろうし、色々教えて上げてよ」

「ヤッター!葎っちゃん先輩話分かる〜」


佐藤寮長の言葉に朝子殿はわざとらしく喜ぶ……内心チョロいなと思ってたりしてね。


「でもぉ、第2のコトちゃんにはちゃんと話通しとかないと駄目だよ。一応、規則ルールだからね……何ならボクから言っといてあげるけど……」

「うっ……葎っちゃん先輩お願いします〜。」

「うん、分かった。ちょっと待ってね」


そう言いながら自分の手より遥かに大きい(普通サイズなのだが)スマホを片手に何処かへ電話を掛けて始める。


「あ、もしもしコトちゃん? 第3の佐藤だけどね、この間の合同歓迎会の時はありがとう。でね、そっちのチカちゃんとサコちゃんが今夜うちのアユちゃんのトコに泊まりたいって言ってるんだけど……。えっ? う、うん、分かった。じゃあね。」


ピッと電話を切った佐藤寮長が不思議そうな顔をして


「……何かコトちゃん、むしろ引き取って下さい位の勢いだったんだけど……どうして?」

「あァ、どうせこいつの事だからあちこちで碌でもない事を色々とやらかしてるんだろ?」

「コトちゃんも大変だねぇ……」


佐藤寮長と早乙女寮長がしみじみと話す。


「いやぁ〜照れるなぁ。武勇伝の一部っすよ」

「褒めてねぇぞ」


早乙女寮長のゲンコツが朝子殿に軽く飛んでいた。


「これがあゆちんの部屋かぁ〜……さぁて、まずはベットの下に如何わしい本を……」

「そんなモノは無いぞ」


ベットの下を弄ろうとした朝子殿にそう言い放つ。それは男子が男友達の部屋に来た際のお決まり事なのだろうが……生憎私は女子で、彼女も女子だ。


「チッチッチッ……ベットの下に朝子ちゃん推奨の薄い本を隠すのだよ」

「はいはい、そう言う事は止めましょうね」

「えーっ!折角、観賞用・保存用・布教用と用意したのに……」


渋々朝子殿が謎の書物を紙袋に仕舞う。

散らかしに来たのかこの人は……。

因みに千景殿はベットに座り壁に掛かっている鳩時計を凝視している。

毎時零分になると出てきて時を告げるアレだが、何故ここに在るかはよく分からない。

以前この部屋にいた生徒が残して行ったもののようだが……。

丁度午後6時になったので、時計の上の扉から鳩が姿を現した。


『ぽっぽー……ぽっぽー…ぽっぽー…ぽっぽー…ぎゃぁァァァァ!…』


何回かに一回絶叫を上げるので微妙に近所迷惑だったりする。

その鳩を見て朝子殿が大爆笑、千景殿はその場で固まっている。

私は毎度の事なので慣れてしまっている。

人間の環境適応能力の凄さを実感している。


「――じゃ、食事を取ったら早速手伝って貰おうか?」

「え゛……?」

「――朝子、言った事はちゃんと守らないと」


千景殿と私で朝子殿に詰め寄る。


「う゛~、わかったよ~……。そんじゃ、まずはご飯食べに行こ」


机にチョコンと座っているメアリーちゃんを抱え、4人(?)で1階の食堂へ向かう。

――今日は長い夜になりそうだ。


窓から見える庭の桜の樹は花びらが落ち、青葉が生い茂り始めていた。

そんなある日の出来事。

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