アナザーエデン投稿

あかりんりん

第1話「その男 ライム」 ~陽気な自称ラッパーコメディアン~

この世界では“人間”と“魔物”が住んでいる。


人々は村や町、城などに身を寄せて暮らしているが、魔物の一部も村などで身を寄せて暮らしている。


人間と魔物の闘いは長く続いており、魔物を全滅させようとする人間と、人間を全滅させようとする魔物、そして人間と魔物の共存を望む者が存在していた。


物語の主人公“アルド”も共存を望む中の一人だ。


アルドは“時空のゆがみ”に入って未来へ行き、そこで未来の大型飛行船である“合成鬼龍”に出会う。


合成鬼龍は心を持っており、話すことも出来る。

大型飛行船であるため人を乗せて移動するだけでなく、時空のゆがみを使って“未来”と“過去”にも行くことができる。


そしてアルドは、過去、現代、未来で出会った多くの仲間達と共に、世界を救う旅をしている。

その仲間の中には、人間と魔物の共存を望んでいる魔物の王も含まれている。


アルド達は闘うことでさらに闘う力を身に付け、世界を救うためにその力を使う。


そんなアルド達が旅を続けていた時、新たな男と出会い、この物語が始まる。



ここは現代の“ミグレイナ大陸”のセレナ海岸”だ。


広大で澄み渡る海が見える海岸で、人を襲う魔物も、また暮らしている。


そこをアルドが相棒のネコと歩いていた時、後ろから急に男に声をかけられた。


「おっ!過去に戻れるって噂のアルドってのはキミのことかい?」


話かけてきたのは体格の大きな男であった。


「な、なんだ急に!まぁ、俺がアルドだけど・・・」


アルドは知らない大男に声をかけられて驚く。


「おっとわりぃわりぃ!自己紹介が先だな!俺の名前はライム。ラップが上手くて面白いコメディアンさ!」


ライムは自信満々に親指で自分を指さした。


ライムは無精ヒゲを生やし、大きめのパーカーにダボダボのパンツ。そして頭にはキャップをかぶって、大きめの靴を履いている。


元々の大きな体が、服装でさらに大きく見える。

服はどれもボロボロだったが、本人はそれもまた気に入っているようだった。


「そ、そうか。自分のことを面白いって言うくらいだから本当に面白いんだろうな」


アルドはライムの自己肯定感の高さに驚かされたが、否定せずに話を合わせてやった。


アルドが多くの人から“お人好し”と言われ、好かれている理由はこういった性格のためだろう。


「もちろんだぜっ!じゃあとっておきのギャグを披露するぜ!俺はこないだ釣りをしてたんだ。するとデッカい“リンデカマス”が釣れたんだ。するとそいつが言ったんだ、“何してくれんだ!ぶち”かます”ぞ!ってな!なんつって!キャッハッハハ(笑)」


ライムは自信満々にギャグを披露したが、笑っているのは彼だけであった。


「・・・」


お人好しのアルドは目をつむりながら、何が面白いのかを真剣に考えていた。


「ありゃりゃ?どうやらアルドにはさっきのギャグは難しかったようだな。じゃあ次のいくぜ!」

「え!?ギャ、ギャグはもう良いよ!それよりも、なんの用なんだ?」

アルドは慌てて止め、必死で話題を元に戻した。


「おっそうそう!ネコを連れた冒険者の格好をした男が、過去に戻れるって噂を聞いてな。そこでお願いがあるんだ。俺を過去に連れてってくれよ」

またライムは親指で自分を指さす。

このポーズがお気に入りのようだとアルドは思った。


「うーん、なぜ過去に戻りたいんだ?」

アルドはライムのことを“あまり信用できなかった”が、話だけでも聞いてあげることにした。


「過去に戻って俺をもっと面白いコメディアンにしてやりたいんだ。子どもの頃から練習すれば、もっと面白くなれたはずなんだ」


「なんだそれは!そんな自分勝手なお願いは聞けないよ!だいたい、過去に戻らなくても今から練習すれば良いじゃないか!」

アルドは少し怒りを覚えたが、それを抑えつつ、正論で説得する。


「そうなんだけどなぁ、そこをなんとか頼むよ。ホラ、いつでも笑わせてやるからさ!じゃあ次な!ラップを聴かせてやるよ!」


ライムはそう言って大きく深呼吸した。


「ラ、ラップ?なんだそれは・・・」

初めて聞く言葉に、アルドは戸惑った。


YO!俺の名前は ライム

ガキの頃から好きだった マイク

悩みなんて一つも 皆無

ここらで一息ちょっと タイム


初めましてな! アルド!

噂になってるぜお前の 覚悟

俺もやるから一緒に 歩こう

ただ黙って聞いてくれて Thank you so much!


ライムはやり切った顔で、目を細めて太陽を見つめていた。

このポーズもお気に入りなのだと、アルドにはすぐに分かった。


「・・・」


アルドは初めて聞いたラップに驚かされ、何も言えなかった。


「よ、よく分からないけど、たぶん、スゴい、のか?・・・」

お人好しのアルドなりの懸命のフォローだった。


「な!な!俺と一緒に過去にいけたら面白いと思うだろ?」

根拠は無いがライムは自信満々にそう言った。


「いやいや!なんでだよ!そうはならないよ!うーん、ちょっと理由がなぁ・・・それに、過去を変えると、現代や未来にも少なからず影響が出るんだ。ゴメンな」

アルドはライムのことを、悪いやつでは無さそうだと思いつつも、やはり理由が理由なだけに信用できなかった。


「そうか・・・残念だ。じゃあな」

ライムは思いっきり肩を落として歩いて行った。


アルドは少し悪い気もしたが、ライムとは反対方向へ歩き出した。


少し歩いたところで、

「ねぇおじさん!さっきの人を助けてあげてよ」

今度は後ろから急に小さな少女が声をかけてきた。


黄色いワンピースを着た10才くらいのショートカットの女の子だった。


「な、なんだ急に!」

アルドはまたも急に話しかけられたので驚く。

驚いたのは今日これで二度目だ。


「フフッ。あらゴメンなさい。私の名前はレモン。さっきの人の子どもよ」


「え?さっきの人ってのは確か、ライムって男のことか?」


「そう。ライムの子どもで、レモン。じゃあここで問題。お母さんの名前はなんでしょうか?もし不正解だったら、お父さんのことを助けてあげてよ」


「え?問題?え、えーと、うーん、父親がライムで、子どもがレモン・・・じゃあ、“オレンジ”とか?」


お人好しのアルドは話をたたみかけられてしまい、またもや話を合わせて、一生懸命に考えて答えた。


「ぶっぶー!残念!ハズレです!正解は・・・“かぼす”でした」


「そっかぁ。かぼすさんかぁ、そりゃ分からなかったなぁ。残念だな。(あれ?俺は一体何をやっているんだ?)」

アルドは目をつむり、冷静になって考え込む。


「じゃあ不正解だから、お父さんのお願いをかなえてよ。キャハハッ(笑)。なーんて、冗談よ」


「え?あ、いや、それは・・・」

アルドは困ってしまった。

それを見てレモンは話を続ける。


「かぼすお母さんはとっても優しいの。料理も上手だし。でも、ある日お父さんが勝手に家を飛び出しちゃったの。だからきっと、お父さんは心残りがあるから過去に戻りたいんだと思うの」


「そ、そうなのか。でも、ライムもそれならそうと言ってくれたら、もう少しは考えたんだけどな。過去に戻りたい理由が、“自分を面白くしたい”だとか自分勝手なお願いだったから断ったんだ」


そう言いつつ、それでもアルドは、レモンの話を半信半疑で話を聞いていた。


「じゃあ、せめて過去に戻って、“お父さんって面白くないこと”を気づかせてくれない?小さいお父さんが今のお父さんを見ても、きっと面白くないことが伝わるから」


「そ、それは・・・ヒドイことを言うんだな。でも、まぁ、そうだな・・・。人助けと思ってやってみるか。(ライムもレモンも悪い人じゃあなさそうだし)本当の理由があるのかもしれないし」


何度もいうが、アルドはこういった優しいお人好しなのである。


「ありがと、おじさん」


「良いよ。そうそう、さっきから気になっていたんだけど、まだ若いから“おじさん”は止めてくれないか?」


「はーい!どうもありがとう、お兄さん!じゃあ私はお母さんとずっと待ってるね」


「分かった。じゃあ早速ライムを探して話をしてくるよ」


「お父さんのこと、お願いね・・・」


レモンはその言葉をとても小さな声で言った。

さらに声は少し震えていたが、アルドは気がつかなかった。


アルドがライムと同じ方向へ走り出し、見えなくなったことを確認し、レモンはスッと消えていった。


アルドは、レモンのためにも、ライムともう一度話しをし、過去に連れていくことを決めた。


「おーい!ライムー!過去に戻りたいんだろ?良いよ、協力するよ」


「おっ本当か!?やっぱり俺のギャグとラップが聴きたくなったんだろ?嬉しいな!ヨロシク頼むぜ!」


「いや、違うよ!ただし、さっきも言ったが、過去は大きくは変えられないぞ」


「あぁ、それで良い、もう少しだけ面白くなってりゃ大丈夫だからな!」


「そういえばさっきそこであんたの娘のレモンちゃんに会って、あんたを過去に連れて行ってくれないかと、お願いされたんだ。あれ?さっきまでそこにいたのに・・・」


「レモンに会った?そんな訳ないだろ。夢でも見たんじゃねーか?じゃあ早速頼むぜ!行っくぜぇぇぇぇ!!待ってろよ!過去の俺―!!」

そう言ってライムは走り去ってしまった。


「っておい!どこに行くんだ!そっちじゃないよ!」

アルドは慌ててツッコんだ。


「やれやれ、大変なお願いを引き受けてしまったかな」

アルドは少し後悔したが、これまで何度も苦悩を乗り越えた経験があるため、“なんとかなるだろう“と思っていた。


陽気で自信満々、だが、瞳の奥に暗さを隠している大男との冒険が、今始まった。

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