第2話「親父との再会」 ~過去の大きな勘違い~

アルドとライムは未来や過去に行くことができる未来の大型飛行船、合成鬼龍に乗り込む。


「うわー!でっけぇ!スゲェな!“こんなの”で過去にいけるのか!」

ライムは子どものようにはしゃいでいる。


「“こんなの”で悪かったな」

合成鬼龍は低くとがった声で言う。


「うわっ!飛行船が喋った!」


今度はライムが驚き、アルドが説明する。

「そういえば説明してなかったけど、合成鬼龍は未来の飛行船で、過去にも行けるんだ」


「そうなのか、未来にはスゲェことがたくさんあるんだな。おっ、じゃあ俺のラップも未来のロボットに通じるのかな?」


「ラップ?なんだそれは・・・」

合成鬼龍は初めてその言葉を聞いた時のアルドと同じような反応をする。


ライムは少し考え、大きく深呼吸する。


おっしゃ!いくぜ!

YO!俺の身勝手な 依頼

なのに来てくれた 未来

のでっけぇスッゲェ 機械

で俺は俺の過去をもう一度 見たい


ヨロシクな! 合成鬼龍!

昔の懐かしい 光景見るぅ!

チャンスくれたアルドに 尊敬し言う!

ありがとな! Oh Yeah Here we go!


ライムはまたやり切った顔で、目を細めて太陽を見つめていた。


「・・・」


合成鬼龍は黙ってしまった。


「ふふっ(笑)」

合成鬼龍の反応を見てアルドは少し微笑んだ。二度目のラップにも少し慣れてきたようだった。


「ズコーッ!俺のラップは未来のロボットには通じないのか!」

ライムは大袈裟におどけてみせた。


「全然分からん」

合成鬼龍は低い声で冷たく言い放った。


「そんなバナナぁぁ!!キャッハッハ(笑)」

ライムはまた、自分で言って自分が一番笑っている。


「ラップってのはやっぱりさっぱり分からないが、だんだんライムのことがカッコよく見えてきたよ」

アルドは少しずつライムのことが好きになり始めていた。


「おっ!アルド!今、“やっぱり”と“さっぱり”って言ったな!それは韻を踏んでて、ラップになるんだ!良いじゃねぇか!だんだんアルドもラップが好きになりつつあるんだな!キャッハッハ(笑)」


「えっ?いや、えーと・・・全然分からないな」

アルドは何を誉められたのか理解できなかった。


「冗談はそれくらいにして、そろそろ出発するぞ」

合成鬼龍は話を戻した。


「あぁ、そういやまた自己紹介が遅れたが、俺の名前はライムだ。改めてよろしく頼むぜ!」


「あぁ。着くまで少し時間がかかる。何も無いが、まぁゆっくりしていてくれ」

合成鬼龍はそう言って二人を乗せて出発した。


「そういや、俺の話をしても良いかな?」

沈黙が苦手なライムは、突然話を始めた。


「あぁ、時間もあるしかまわないよ」

もちろんアルドは止めなかった。


「俺の親父はミグランス城の兵士長だったんだ。名前はプラム。俺が言うのもなんだけど、親父はかなり強かったよ。体格もデカかったしな。母さんは俺がまだ赤ん坊の時に、魔物に突然襲われて死んだらしくてな。その後は親父が一人で俺を育ててくれたんだ。でも、親父は俺に対して愛は無かったと思う」

そう言うとライムは少し寂しそうな顔をした。


アルドはその寂しそうな表情を見て聞いた。

「どうして?」


「ただただ、魔物に母さんを殺された恨みを、俺にぶつけていたんだと思う。そりゃもう訓練はかなり厳しかったよ。親父はいつも目が血走ってて、俺が友達なんかと遊んでいたら“おいっ!訓練はどうした!”って怒鳴られてな。でもまぁそんな訓練だらけだったから、俺は同年代の兵士の中では一番強くなれたよ」


「そうか。ライムも大変だったんだな」

アルドはライムのことを少し見直す。


「あぁ、親父は俺を強くすることしか生き甲斐が無かったんだと思うよ。俺が剣術大会で優勝した時でも、親父は俺を誉めなかったし、認めなかったな。“もっともっと強くなれ”ってさ」

そう言いながら再びライムは少し寂しそうな顔をした。


「それで、忘れもしないあの日の夜に、親父が魔物の討伐に出かけた時に、逆に魔物の集団に襲われて死んだんだ。ずっと魔物を全滅させようとしてたから、魔物に相当恨まれていたんだろうな。親父が殺されるのも時間の問題だと覚悟していたよ。それから、俺は兵士を辞めた。もう戦うのもイヤだった」

ライムの表情は曇っていた。


「それから俺は“殺し殺される世界”がイヤになって“笑える世界”をつくりたくてコメディアンを目指し始めたんだ。元々、友達を笑わせるのは得意だったからな」


「そうだったのか・・・」

アルドは目をつむり、とても悲しい顔をした。


「・・・そろそろ着くぞ」

合成鬼竜は低い声でうなった。


「長話でつまらない話をしてすまなかった。聞いてくれてありがとな、アルド」


「あぁ、大丈夫だよ」

アルドは短く返事をした。



アルド達は過去のミグランス城の城下町である王都ユニガンに行った。


ユニガンには武器屋、宿屋、酒場など店が多く、この時代で唯一の国立劇場もある。


そして町の二カ所の出入り口には大きい城門と門番がおり、魔物に襲われる可能性も低く、人もネコも多く暮らしている平和な町だ。


そして宿屋では、名物の”お豆の王国風スープ”が飲める。

それは豆の食感が楽しく、素朴な味わいに安心する味のようだ。


アルド達はユニガンの宿屋で少し休んだ後、ミグランス城に向かうと、兵士達が訓練をしていた。


その中で、一際剣さばきのキレが良い子供がいた。


「おっあれが昔の俺か!ヤング・ライムだな」

そう言ってミグランス城に入ろうとしたが、

「おい!ちょっと待て!部外者は入れんぞ!」

門番は叫んでライムを止めた。


「いやいや、俺はあいつの・・・」

ライムがそう言いかけて、アルドが止めた。


「ちょっと待て、さすがに未来からやってきたというのはマズいだろ」

アルドは小声でライムに囁いた。


「えぇっと・・・そう、入団試験を受けに来たんだ」

とっさにライムは思いついたままのことを門番に言った。


「そうか。ならば“カレク湿原”でこの魔物を狩ってきてくれ」

門番はそう言って魔物の写真をライムに渡した。


「OK!お安いご用だ!じゃあ早速行ってくるぜっ!」

調子の良いライムは元気よく返事をして、走り出した。


「まったく、少しも気が抜けないな・・・っておい!カレク湿原はそっちじゃないぞ!」

アルドは少し疲れた声でそう言った。


カレク湿原で指定された魔物を見つけた二人は、早速、剣をかまえる。


「おっこいつだな!ちゃちゃっと終わらそうぜ!アルド!」


「なんだお前らは?俺に勝てるとでも思っているのか?返り討ちにしてやる!」


体格の大きなライムの1.5倍は越えている大型の魔物であったが、ライムは全く怯まない。


ライムは体格のわりに素早い動きで、魔物の攻撃をかわしつつ、確実に魔物の急所を剣で突き刺した。


「ぐっ・・・」

大型の魔物は膝から崩れ落ちた。


「ふぅ、こんなもんか」

そう言ってライムは剣を仕舞った。


「へぇ!さすがだな!兵士としての腕は本当なんだな!」

アルドはライムを見直して感心した。


「おい!人間だ!仲間がやられてる!殺せぇっ!!」

すぐ近くに先ほどの魔物と同様の大型の魔物が数匹いて、そう叫んだ。


「任せてくれ!」

アルドはライムに負けじと別の魔物に立ち向かう。


「死ねぇっ!」

魔物は大きな斧をアルドに振りかざすが、アルドはそれを剣で受け止め、すかさず、剣で魔物の急所を切り裂いた。


「ぐっ・・・くそがっ・・・っ!」

魔物は大きく倒れた。

その衝撃で、地面が少し揺れた。


「アルドの戦い方も無駄が無いな!さすが、世界中を旅してるだけ“あるど”!なんつって!キャッハッハ(笑)」

またライムは自信満々に言って、自分だけが笑っている。


「ふぅ・・・(ホントに、コメディアンは辞めて、兵士を続けてた方が良かったんじゃないか?)」

アルドはそう思ったが、ライムの過去の話を聞いていたので、優しさからそれは口にはしなかった。


「さーて帰るか、おっと、魔物が落とした“大きな木材”でも持って帰れば分かってくれるだろう。その後、これは武器屋で買い取ってくれるしな」

そう言ってライムは大きな木材を二つかついだ。


二人は早速城に戻り、大きな木材をミグランス城の門番に見せて、退治したことを伝えた。


「おぉ!確かに退治できたようだな。では後ほど、プラム兵士長にお前達のことを伝えてくる。とりあえず城内に入っても良いぞ」


「はい、分かりました(プラム兵士長・・・親父か)」

プラム兵士長という言葉を聞いて、ライムの体が緊張で少しだけ強張ったのが、アルドには分かった。


二人は城内の中庭で話しをした。


「とりあえず城に入れて良かったな。あとは子供時代のライムに会って、面白くしてやるんだろ?具体的にはどうするんだ?」


「・・・」


ライムはうつむいたまま、何も言わない。


「お、おいライム、一体どうしたんだ?」


「え?あ、あぁ、すまない、何か言ったか?」


「大丈夫か?子供時代のライムに会ってどう面白くするんだ?」


「そうだな・・・まぁ、俺が最初に面白いギャグを披露すれば、たちまち俺を認めてくれるだろ?それから俺の伝えたいことを言えば、簡単に聞いてくれるはずだ」

ライムはいつものお気に入りの親指を自分に指すポーズをした。しかし、いつもよりキレが無かった。

おそらく、死に別れた父親のことを考えていたのだろう。


「ってまた何も考えて無かったな!だいたい、最初に面白いギャグってのがすごく不安だ・・・」

アルドはすかさずツッコミを入れ、大きくため息を吐いた。


すると、人一倍体が大きく、傷だらけの男が近づいて来て、ライム達に話しかけた。


「ほぅ・・・お前達が新しく兵士に志願した者か。私は兵士長のプラムだ。では早速だが、どれほどの腕があるのか試させてもらう。どちらからやる?それとも二人同時にかかってきても良いぞ。戦場では常に1対1では無いからな・・・」


「えぇっ!いきなり過ぎやしませんか!?こ、心の準備が・・・」

兵士長プラムの発言に、ライムは戸惑った。


「バカもの!!魔物にいつ襲われるかもしれん。そんな甘ったるい考えで生き残れると思うな!」

プラム兵士長は怒鳴った。


「(そうか、確かこの人の奥さんは急に魔物に襲われたんだったな)」

アルドは感慨深い表情でプラム兵士長を見つめる。


「それもそうですね(俺の母さんはそれで亡くなったと聞いたし)・・・私が間違っていました。ではっ!プラム兵士長!いざ勝負っ!アルド!手出し無用だぜっ!俺の力を試させてくれ!」


ライムは剣を構える。


「ほぅ・・・(目つきが変わった?)少しはやる気になったようだなっ!いくぞっ!」

プラム兵士長は大きな剣を振りかざし、ライムに襲いかかる。


しかし、動きの速いライムはギリギリのところで避ける。そして反撃をしようとした瞬間、プラム兵士長のパンチが飛んできた。


「ぐはぁっ!」

体格の大きなライムが飛ばされるほどの強いパンチだった。


「ま、まだまだぁっ!」

ライムはすぐに立ち上がり、プラム兵士長へ立ち向かう。


「ほう、まだ諦めんとは。それで良い!さぁ!かかってこい!」

プラム兵士長は威嚇する。


アルドは、親子で剣を交える様子を見つめながら思う。

「(もし、お母さんが亡くなってなかったら、家族でもっと幸せな時間を過ごせたんだろうな・・・)ライム!負けるな!」

アルドは自分の家族のことを思い出しながら、応援する。


ライムは先ほど倒れた時に、地面の“砂”を掴んでいて、それをプラム兵士長の顔めがけて投げつける。


「う・・・」


そして次の瞬間、ライムの突き出した剣が、プラム兵士長の体を貫いた、ように見えた。


プラム兵士長は目をつむりながら、本能で、ライムの剣を脇に挟んで避けていた。


「甘いわっ!!ふんっ!」

プラム兵士長は目をつむったまま、ライムを両手で掴み、ふんぞり返る形でライムの後頭部を地面に叩きつけた。


「ぐっ・・・」

ライムは大の字になって倒れた。


「勝負あったようだな・・・」

プラム兵士長は微笑んでいた。だが、


「ま・・・まだ・・・まだまだあぁぁっ!(俺は、親父を、越えてみせる!越えなくちゃあいけないんだっ!)」

ライムは歯を食いしばり再び剣を取り、プラム兵士長へ向かって行く。


「ふんっ!!」

プラム兵士長は靴で地面の砂をライムの顔に振りかけ、ライムが怯んだ瞬間、両手で豪快に剣をふり回し、ライムの剣を弾き飛ばした。


「ぐっ・・・ま、参りました・・・」

とうとうライムは降参した。


「ふぅ。勝負あったようだな。だが、なかなかの腕を持っているようだ・・・そうだ。お前の腕を見込んで頼みがある。私の息子のことなのだが・・・」


「えっ?は、はい。なんでしょうか」


「息子に剣を教えてやって欲しいのだ」

プラム兵士長は真剣な眼差しでライムを見つめる。


「えっ?私なんかで良いのでしょうか」

ライムは戸惑う。


「あぁ、息子のことだが、私が教えたことはすぐに出来るようになるのだが、どうも気持ちが入っておらず、他のことに集中がそれているようなのだ。だからお前が、それを正して欲しいのだ」


「しょ、承知しました!ぜひ、私にお任せください!(マジかよ!やったぜ!これで昔の俺に会ってコメディアンとして鍛えてやれるぜ!)」

ライムは心の中でそう叫び、プラム兵士長に見えない角度で、小さくガッツポーズした。


「うむ。期待しているぞ・・・」

プラム兵士長は静かに言った。


「さて、待たせたが、次はお前の番だな」

プラム兵士長はアルドに向けてそう言った。しかし、


「待ってください、そいつは俺よりも弱いし、さきほど魔物にやられた傷も有ります。だから、それが治ってから勝負してはいかがでしょうか」

ライムなりに気を使い、アルドを庇った言葉だった。


「そうか・・・では、お前との勝負はまた今度にしよう。では、先ほどの件は、頼んだぞ」

そう言い残し、プラム兵士長は城に戻って行った。


二人はプラム兵士長へ敬礼し、去ったことを確認してから、アルドはすぐに話をした。


「やったなライム!やっと子ども時代のライムに会えるな!」

「そうだな・・・」

アルドは嬉しそうに言ったが、なぜかライムの顔には笑顔が無かった。


「どうしたんだ?やっとここまでこれたんだ」


「あぁ・・・いや、親父はやっぱり強かったんだなって思ってな。正直、今の俺なら勝てると思ってた。それに、俺のことを真剣に考えてくれていたことが意外でな。ずっと厳しい剣術しか教えてくれなかったからさ」

ライムの目に少し涙がにじんでいた。


「そうだな。ライムは、“父親がライムに対しては愛が無かった”って言ってたけど、それは勘違いで、“本当は愛されていた”みたいで良かったじゃないか」


「あぁ。ありがとうな、アルド。本当に」


「良いよ。俺も二人を見ていて色々と考えさせられたよ。でも、本当にライムって忙しいな、急に喜んでガッツポーズしたと思ったら、それでいて、本当は良い奴なんだな」


「う、うるせー!俺はコメディアンなんだ!人を笑わせることはあっても、泣かせたりはしないんだよ!」


「なんだよそれ(笑)ハハハっ(笑)」

アルドは少しだけライムのことが好きになっていて、腹をかかえて笑い合った。

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