第2話
駅前の通りは閑散としている。
コロナ禍の前は、いつもこの時間は、会社帰りのサラリーマンで賑わっていた。
今では、店のネオンや看板も消えており、明らかに暗い。
行きつけの居酒屋は営業しているようだった。
閉店は八時で、酒の提供は七時までだという。
「七時までじゃ、そんなに飲めないですよね」
僕はおしぼりで手を拭きながら、心にもないことを言ってやった。
週末に先輩と飲むと、朝までオールとなるのが常だった。居酒屋、二次会、キャバ、カラオケ、朝になっても路上や駅前でうだうだと話し続け、なかなか電車に乗れない。正直言って、時短営業はありがたかった。
しかし、今日は久し振りなので仕方ない。付き合ってやるとしよう。それにまさかこの御時世に朝までオールなんてことはないだろう。
店には、二三組の客がテーブルで飲んでいた。テーブルに衝立のようなものはなかった。大丈夫か。
僕たちは斜向かいの席に座り、注文した。
マスクを外し、生ビールで乾杯すると、コロナウィルスの話になった。先輩が言った。
「大体さあ、コロナとか言って騒ぎすぎなんだよ。風邪みたいなもんでしょ」
これは以前にも何度か聞いた。先輩の持論らしい。感染拡大前で、まだテレワークにもなっていなかった。確かにコロナ禍当初は、そういう意見も多くあった。今では少数派になっているだろう。
「いやいや、感染したらヤバイですよ。まあ先輩は感染しても、どうってことなさそうですけどね」
「若けりゃ大丈夫でしょ。トランプ大統領とかも全然大丈夫だったじゃん」
「自分はいいけど、人に感染すのがヤバイですよ」
「内間の奴、感染しねえかな」
内間とは、僕の一年先輩で、きゃしゃな陰キャで、虎田先輩は毛嫌いしている。パワハラじみたキツイいじりは見ていてハラハラする。
酒が進むと、いつものように俺様自慢が始まった。俺はあの時こうして仕事を取った、俺はこんなに頑張っている、仕事ってのはやっぱりさあ、俺は俺は俺は俺は……。
時間は無情にも過ぎ去り、七時を迎え、閉店時間になった。
流石に今夜は早かった。帰宅したらすぐにゲームをやろう。先輩の話を聞き流しながらプランを練り始めた。甘かった。先輩の言葉に、僕は耳を疑った。
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