第3話
裏通りは更に暗かった。人っ子一人いない。
トラジマの猫が通りを横切ると、ビルの間へと消えていった。
この辺りはスナックやキャバクラが軒を連ねている。先輩に連れられて何度か来たことがあった。
いつもは歩道を塞ぐようにはみ出したネオン看板が点滅しているのだが、今は全て引っ込んで消えている。
先輩はとある看板の前で立ち止まった。やはり電源は入っていない。電灯が重そうな鉄扉を照らしている。
「消えてますけど」
僕は看板を指差して言った。
「いやいや、大丈夫だから」
先輩はそう言うと、扉を開けて中に飛び込んだ。微かにBGMの『香水』が聞こえた。
「いらっしゃいませ」
ボーイが気合いの入った声で挨拶してきた。
体温チェックをして、問診票に記入した。手を消毒した。
「二名様、ご案内」
エントランスも店内も、黒を基調としている。座席はほぼ満席のようだった。
看板を消して営業している店があるとは聞いたことがある。給付金もちゃっかり詐取しているのかもしれない。
二人して席に着くと聞いてみた。
「何で、ここやってるって知ってるんですか」
「ちょっと知り合いから聞いたんだよね」
一体、どういう知り合いなのか。それにしても大丈夫なのか。飲むだけならまだしも流石にこれはヤバイんじゃないか。飲食店のような衝立もない。
「こんばんわー」
嬢が二人来た。二人ともマスクをしている。顔の判別が出来ない。
「カンパーイ」
しかし、飲む時は外す。無意味だ。いや、顔はわかった。まあ今夜は何も言うまい。先輩はビールを一気飲みした。
プハア、うめえ、最高。すごーい、もう一杯もう一杯。既にテンションはマックスだった。
僕の担当は凛ちゃんという、ショートカットでコロコロと笑う明るい子だった。感染の心配はないのか聞いてみた。
「えー、だって生活出来ないじゃん。もう細かいこと言っててもお、しょうがないよ。さ、飲も飲も」
そう言うと、僕のグラスにビールを注いで、体を寄せてきた。髪が頬に触れた。Dカップだな。僕は思った。
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