第4話
もぐり営業の割に、営業時間は短縮しているようだった。日付が変わる前に閉店となった。
最初は感染の危険で多少ハラハラしたが、女の子たちとの会話も楽しかったし、酒も入って細かいことはどうでもよくなった。満ち足りた気分で先輩と店を出た。さあ、駅に向かおうと思っていると、先輩が動かない。何やらスマホをいじっている。
「あれ、どうしたんすか、先輩」
「へえ、何が」
「いや、何がって」
僕が帰らないのか、と言おうとすると、店から嬢が出て来た。最初にテーブルについた二人だった。
「ああ、しんちゃん、お待たせ」
そう言うと凜ちゃんが手を振った。
「よーし、じゃあ行こうぜ」
先輩が言った。
いやいや、行くってどこへ。帰るんじゃないの。
話を聞けば、入店早々にアフターの話がついていたらしい。僕には何も知らせずに。
今からアフターだと終電には間に合わない。確実に朝までオールコースだ。三人に付いていきながら、暗澹たる気分になった。流石に断るか。しかし酔いが回って、そこまでのガッツはなかった。そもそも店やってるのか。先輩に聞くと、凜ちゃんが言った。
「ダイジョブだよ。知り合いの店があるから」
「知り合いの店って、焼き肉屋とか。それとも飲み屋か何か」
「あ、ここだよ。ここ」
僕の質問が終わる前に、目的地に着いたようだった。
看板には、カラオケスナックとある。やはり電飾は消えている。
ドアが開くと、下手糞な歌が聞こえた。原型をとどめていないがking Gnuのようだった。
店内は、カウンターに、テーブルが四つ、それに立派な照明に照らされたステージがある。天井にはミラーボールが回っている。テーブル席は二つが既に埋まっている。僕たちは空いたテーブルに陣取った。
先輩がエグザイルと尾崎豊と三木道山を歌うと、凜ちゃんがNiziUを歌い、もう一人の嬢が『天木越え』を熱唱し、僕はかなり投げやりな気分で髭男を歌った。他のグループとも何となく盛り上がり、かつては工場で働いていたという年配の男はマスクを外して松山千春を歌っていたような気もしたが、夜中の二時を過ぎると僕は酒と眠気で意識が朦朧としており、最早細かいことは覚えちゃいなかった。目を覚まして表に出た時にはもう夜明けで、嬢二人は駅前でタクシーに乗った。先輩がタクシー代を渡していたようだった。
「アフター久し振りだったから、すごい楽しかった。じゃあね、しんちゃん」
そう言って凜ちゃんは手を振った。
先輩も今朝は、グズグズしないで改札口で別れた。僕とは反対方向だった。
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