白色透明な徒花のよう。

とても短い作品ですが、その分、味わい深いものとなっています。

思春期の「僕」が恋した「君」に宛てて書いた手紙、のようにも見えます。
それはまるで情熱的な恋文のよう。
しかし、あくまでそれは、決して「君」に読まれることが無いという前提のもとに書いたものであり、その意味でこれは「僕」が自分自身に対して書いている文章ということになります。

友人もなく、自分自身の瞳を”汚れている”と表現する「僕」は、自分と対照的な他生徒に対して嫌悪感を抱いている。そんな中、同様に他の生徒達の色に染まらずにいる「君」に出会います。

おそらくは、「僕」の「君」に対する『僕らは異質であり特別』という仲間意識のようなものから出発した恋。
一年を経ても二人の仲が親密になる様子は無く、しかしながら ”一日十回交わされる瞳” によって、「僕」の恋は妄信的なまでになっていきます。

決して他に染まる事のない ”はずだった” 藍色の瞳。
それが簡単に変わってしまった事にうろたえた「僕」は、
裏切られたような思いすら抱いた様子で、「僕の中の君」に別れを告げる。

単純に言うなら、思春期の理想と現実。
そして、変わってしまう事への絶望。
そういったものを思い出させる文章です。


また、「僕」視点から一歩引いて見た場合の物語としては、
色々な解釈ができると思います。

ある日突然、着飾った姿で「僕」の前に現れた「君」。
作中では、その理由は明らかにされていません。

素直に解釈し、「君」もまた他の女子同様、着飾る事に憧れを持っていて、何らかのきっかけで決心し、変わってしまったとすれば、「僕」の思春期らしい独り善がりな片思いが終わりを告げた、そんな青春の1ページと言えます。

別の解釈としては。

「僕」にとって前触れも無い突然の出来事であったことから推測するに、「僕」以外の "誰か" に恋をしていた彼女が、その "誰か" に好かれようとして…もしくは好かれた結果として、変わってしまったのであれば。
好きだった彼女は別の "誰か" が好きだった、という意味での失恋。そして、好きだった彼女の存在が消え去ってしまった、という意味での失恋。
二重の意味で「僕」は失恋したわけであり、それもまた青春にありがちな事とはいえ、やはり、せつない。

あるいは。

同様に、彼女が誰かに好かれようとした結果として変わってしまったのだとしても、その ”誰か” が「僕」だったのだとしたら…
つまり、「僕」に恋する「君」が、「僕」に好かれたいが為に勇気をふり絞って、変わったものだとしたなら。

それは、とても せつない すれ違いです。


作中、「僕」は「君」を
”白色透明な徒花のよう” と例えています。

私は恥ずかしながら、徒花とは何か知りませんでした。

徒花とは、咲いてもすぐに儚く散ってしまう花のこと。
あるいは、実の無い花…見た目だけが良く中身の無い事の例えなのだそうです。
どちらも、この恋を象徴しているようで、また少しせつない気持ちになりました。

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失恋