私たちが共有しているもの。

作品のタイトル通りのストーリーです。
じゃあ、わざわざ中身を読む必要がない?
もちろん、そんなことないわけで。

以下、ネタバレあり。

タイトル通りのストーリーで、タイトルから想像した通りの、
ぶりっ子アイドルが ぶりっ子に疲れている話…なのですが、
想像と違ったのは、ぶりっ子に疲れてはいても、
別に厭々やっているわけでも無く、ギャップに悩んでいるわけでもなく、
本人はそれを前向きに、肯定的に取り組んでいるという点。

絶望のどん底にいるわけでも無いし、
夢に近づいて それなりには充実している。
けど、頑張ってれば そりゃぁやっぱり疲れちゃうよね。

そこへ登場するのが赤いきつね。
日本人の大多数が一度は口にしたことがある、「馴染みのある」味。
読者のほとんどは、そのシーンで自分の中の「あの味」が浮かんでくるはずです。

危機に瀕しているわけではない。緊迫しているわけでもない。
もちろん、つらいことは、ある。
「平凡」な私たちと、「非凡」の象徴でもあるアイドルの主人公が、
それぞれ形こそ違うけれど、似たような日常を送っている。
その感覚を、「赤いきつね」が味の記憶で共有させる。

作中、少女とのやり取りを経て、主人公に ほんの少しだけ変化が訪れます。
変わらぬ日常のように思えて、ちょっとした出来事によってちょっとずつ変化している。
凝り固まった日常のように思えて、実は私たちは柔軟だ。
そんな気持ちで読み終えられる作品です。

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