跋 策士、策に溺れる?!
「とは言ってもよ? アンタの場合、まず顔の造りそのものは女子なのよね」
「だけどほら、ヘアスタイルとか、服装とか、それから言動ね。とにかくそういう部分が『オレ』なんだけど、そこがまぁ完璧に強いから!」
「周囲は騙されてしまうわけ! あっ、でも騙すって言っても別に悪い意味じゃないのよ?」
「でもね、そこで『女子』がチラッと見えてご覧なさいな! ギャップが凄まじいのよ! 可愛いったらないのよ、もう!」
なんだかあたしもテンションが上がっちゃって、チーズケーキを食べながら、そんなことを話したわけだけど、その度に小暮が、ドン引きしたような顔になって、レモンタルトを削り取るようにしてちまちま食べるのが面白い。アンタもっと豪快に食べると思ってたわ。
「だからまぁ、あたしとしてはね、今回はこんな結果になってしまったけど、アンタは今後、絶対に狙った男を落とせると思うの」
今回だって、和山があたしに対してあんなことを言わなければわからなかった。幸い、バスケに関しては小暮はさほど気にならないみたいだし。
「本当に、そう思うか?」
恐る恐る、といった体で、小暮が尋ねてくる。それに「当たり前じゃない」と返す。あのね、そもそも『オレっ娘』って人気ジャンルなのよ? 二次元だけの話じゃないからね?
「このまんまのオレでも、イケると思うか?」
「もちろんよ。だから、和山はまぁ諦める――って、こっちから願い下げだっつってんだから諦めるってのはおかしな表現だけど、次の恋よね。また、新しいお相手が出来たらいつでも連絡して頂戴な」
「次も協力してくれんの?」
「当然よ。一度引き受けたからには、成就までしっかり面倒みるわよ」
だってもうこの子、何だか目が離せないのよ。ウチの木綿ちゃんもそうだけど、あっちは一応片付いたわけだし。
「そんじゃあさ、オレ、お前が良いわ」
「……は?」
いま、なんて言ったの、この子。
「どう考えても千秋なんだよな」
「あたし?」
「一緒にいて楽しいし、お前デカくてまぁまぁごついしな」
「和山より細いとか言った癖に」
「まぁそうなんだけど。でも、着痩せすんだろ? 脱いだらすげぇんじゃねぇのかよ。腹も割れてるって話だしな」
「ちょっ……! いやらしい目で見るのやめて頂戴!」
目を細めてじぃぃぃぃーと見つめてくるものだから、何だか服の下まで見透かされてしまいそうで、思わず身体を捻って防御する。
「そういうわけだから、落とし方教えろ。なぁ、オレは何すれば良い? 何をどうしたらお前落ちんだよ」
「ちょっ、え、ええ? あたし? ほんとにあたしなの?!」
「ほんとにお前だわ。ナントカバヤシ千秋だわ」
「ちょっと、ナントカバヤシって何よ! 富田林よ! 好きな男の名字くらい覚えなさいよ!」
「悪いな。何せ好きだって気付いたの、さっきだから。これからちゃんと覚えるっつーの」
ちっとも悪びれた様子もなくニカッと歯を見せる小暮は、今日イチの笑顔だ。いや、あたしも何か口滑らせたけど、マジであたしがこの子の『好きな男』なわけ?
「そんで? お前の攻略方法教えてくれよ、軍師様」
うんと悪い笑みを浮かべて、ずい、と身を乗り出してくる。何よこの子、結構グイグイ行くタイプなの? あのね、あたし、自慢じゃないけど、こうやって好意を剥き出しにされたことあんまりないの。何せ、オネエであるからして?!
そりゃね? あたしのことをよく知らない他校の女子から告られたことは何度もあるわよ? でも、あたしがオネエだってわかったら、それはそれはもうマッハで引かれちゃうのよね。ま、あたしとしても見た目だけですり寄って来る女子なんて正直勘弁だったから痛くもかゆくもないし良いんだけど、「キッモ! オカマじゃん!」は結構胸に来るのよね。いやいや、その辺までしっかりリサーチしてから来てくれる?
そして、それよりも辛いのが木綿ちゃんの反応よね。「トンちゃんはキモくないもん!」ってひきつけを起こすレベルで号泣するんだから。どうしてアンタがそこまで泣くのよもう。
「あたしの攻略法なんて特にないわよ。……ただ、そうね、強いて言えばだけど『可愛い』子が好きね」
「そういやそんなこと言ってたな」
よっしゃ、そんならアレか、スカート履いて化粧すりゃ良いってことだな、髪も伸ばすかぁ、とあたしの言う『可愛い』を一ミリも理解してない小暮が、「仕方ねぇ、姉ちゃんに聞くかぁ」なんて呟きながら不服そうに頬杖をつく。それに、はあぁ、と大袈裟にため息をついてみせた。
「アンタさっき、どんな話してたか覚えてないの?」
「あ? どんな話してたっけ」
「っダ――! もうっ! そのまんまのアンタでもイケるって話だったでしょうよ! ギャップで落とせるわよって!」
「あ、そうだったな。てことは何? お前、このまんまのオレでもイケる感じ?」
「あたし散々、アンタのこと可愛い可愛い言って来たわよね……?」
「いや、でもそれは違うやつだろ? チワワがワンワンするやつなんだろ?」
「それも含めて全部よ。あたしはずーっとアンタのこと、女として可愛いと思ってたわよ」
もちろん、『女子』ってわかってからの話だけど。そこはまぁ黙っておきましょ。
「うあ、マジか。じゃあ、アレか、イケんのか。落とせんのか」
「落とせるんじゃない? 知らないわよ」
「知らないわよ、じゃねぇよ。知っとけ。おい、何か具体策寄越せや、手っ取り早いやつ」
「そんなものないわよ。ちょっとずつ育んでいくものなの、そういうのは!」
「貴文と蓼沼のことさんざん牛の歩みとか言ってた癖に、お前も奥手なんじゃねぇかよ」
「はあぁ?! あの亀ップルと一緒にしないで頂戴!」
「おい、牛なのか亀なのかどっちなんだ」
「おだまり!」
こっちだってね、色々混乱してるんだから! 何であたしがアンタにこんなドキドキさせられなきゃなんないのよ!
「……そんじゃ、何。アンタ、あたしの女になりたいってことで良いの?」
動揺を悟られまいと、そんなことを言ってやれば、
「っじょーだん。お前がオレの男になるんだよ」
と、これまた小憎たらしい答えが返ってきた。
「減らず口叩きやがって、このオレっ娘が」
「うるせぇよ、オネエ」
そんなことを言い合って、同時に吹き出す。
「アンタねぇ、曲がりなりにもあたしのこと好きなんだったら、もうちょっと態度とかねぇ」
肩の力をふっと抜き、氷も溶け切ってすっかり薄くなったアイスティーを飲む。
「このままで良いっつったの、千秋だろ。とにかくアレだ。やっぱオレお前のこと好きだわ、うん。おもしれーし。一緒にいて飽きねぇ」
「それは同感ね。あたしも全然飽きない。目が離せなくて面白いのよ、アンタ。あーでも、柘植になんて言ったら良いのかしら」
「何でも良いだろ。策士、策に溺れたとでも言っとけ」
「溺れてたまるもんですか。あーもう、このまま落とされるなんて癪だわぁ」
でももうわかるのよね。だってあたしだって全然悪い気しないんだもの。
「せいぜい抗っとけ。オレのままで良いとわかった以上、こっちはもう
千秋だったら身体動かす系もイケんだろ! と言いながら、早速市内のアスレチック施設をウキウキと検索している小暮のまぁ可愛いこと。
それじゃあまぁ、せいぜい抗ってあげようかしらね。全力で落としてみなさい、このチワワ娘が。
〈終〉
〜作者より〜
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