二度と取り戻せない青春の日々

 高所から身を投げ、一命は取り留めたものの目覚めないままの女性と、その傍に付き添う幼なじみの男性の物語。
 悲劇的なお話です。理由もわからぬまま先立たれてしまった人(厳密には一応生きてはいるけど)の苦悩。親しかったはずなのに、いや親しいからこそ余計に己の不甲斐なさが浮き立つばかりで、後悔にまみれながら振り返る美しい思い出たちの、その輝きがかえって悲哀を引き立てます。あまりにも悲しく、なによりどうすることもできない無力さに苛まれる、現実の重さと残酷さを描いた物語。
 身投げした女性、海さんの側から見た事情が、ほとんど明かされないところが好きです。冒頭から早々に身を投げて、きっとそこにはそうするだけの事情や苦悩があったと思うのですけれど、でもその辺りは一切明かされない。といっても、当然まったくの謎というわけではなく、彼女の目標やこれまでの来し方から、多少は想像のつく部分もあるのですけれど。でも直接かつ具体的な理由については不明のまま。残された側の苦悩というのは結局そこにこそあって、相談すらしてもらえなかった己の不明を恥じ、もう答えの得られることのない問いを延々考え続けることになる、その重苦しさが胸に突き刺さるかのようでした。
 終盤の展開がとても好みでした。ネタバレになるので具体的には触れませんけれど、幼少期や思春期などの思い出を振り返ったのち、ようやく動き出す「これから」の部分。主人公の決断が覚悟として伝わる、悲しくも綺麗な物語でした。