GW編5
「大和、もし目の前に爆弾があったらどうする?」
「解体する」
「設計図があればできるかもな。一昔前は設計図を書くには紙しかなかったから簡単に見つけることもできたが……」
俺は、いや、俺と兄は公園のベンチに座りながらアイスクリームを片手に人生において使い道の無さそうな雑談をしていた。
これは夢……いや、記憶、か。
たしかにこの会話には覚えがある。この続きは……。
「いまどきは電子端末上で書くから、そう簡単に設計図は見つからない時代なんだ」
そうだった。
「だから、もし見つからない時は……」
兄貴、そんなことよりもどこへ行ったんだよ。
徐々に世界が白く消えていく。
この時、俺達兄弟は何を話していたのか……。
思い出せないまま、意識は覚醒へと向かった。
「大和君、起きてってば!」
体を揺さぶられ、ハスキーな声に耳元で名前をささやかれる。
俺はゆっくりと目を開けた。
自動車のエンジンは既に切ってあり、運転席に青木さんの姿はない。
左をみると、「してやったり」と言いたげなくすんだ金髪の顔が目に入った。
「女の子かと思った? 残念、樹人ちゃんでした!」
「着いたのか?」
「まったく薄いリアクションだなぁ」
やれやれといった樹人のオーバーリアクションを無視してシートベルトを外す。
動いた時の腰の重さが、車中で渡されたアレが夢でないと主張していた。
同封されていたホルダーの性能か、全く音がしない。
外に出ると琴乃がジト目でこちらを見ていた。
「シノッチ、そっち系の人だったんだね」
「そっちって、どういうことですか?」
隣に立つ橋本の問いに対して、琴乃が悪戯っぽくこちらに横目をやりながら耳打ちする。
直後、急に橋本が頬を赤らめた。
「何の話だ?」
俺の問いに対して最初に答えたのは樹人だった。
「いや、誰が起こすか、ってゲームをしてたんだよ」
「私と雪ちゃんがせっかく起こしてあげたのに、ビクともしないんだもん。そして天ちゃんのときに目が覚めた。つまり……」
「前の二人で眠りが浅くなったところに、不快さで目が覚めた、ということだな」
まったく下らない。
俺の断言に琴乃は「そういう可能性もあるか」と不満げにぼやいているし、樹人は文句を言っている。橋本はなぜか安堵の表情を浮かべていた。
なんの生産性もない会話だが、少しは目が冴えたのでよしとしよう。
改めて周囲を見渡すと、そこは森の中に開けた平地のような空間だった。
平地を削って引き裂いたように堀の中を川が流れているが、それを覆い隠す過剰な高さの堤防で上手く川の深さを測れない。
そしてその川に接するように、歴史を感じさせる建物がそびえていた。正直に感想を述べるなら、ここで爆弾が爆発しようものなら即座に倒壊すると思う。
「青木さんは?」
「チェックインに時間がかかりそうだたから、散歩でもしていてって」
樹人はそういうと顔を近づけて付け加える。
「今のうちに周囲に不審物がないか確認しておけってことかもね」
「いちいち耳元で話すな」
俺が邪険にあしらうと、樹人は肩をすくめて歩き出した。
橋本が「やっぱり」と言って顔を手で覆いながら、頬を赤らめてこちらを見ていたが、見なかったことにする。
並んで歩く俺達に琴乃が駆け寄ってきた。
「私はそっち方面にも理解あるから大丈夫だよ!」
「そっちがどっちかは知らんが、森に入ったらはぐれないように気を付けろよ。遭難したら探しに行くメリットより二次遭難のリスクの方が高いからな」
「ちょっと⁉ もし置いて行かれたらSNSで社会的に生きていけない呪いをかけるから!」
「それは呪いなのか? あと、電波あるなら下山しろよ……」
ここまで来てようやく一連の話が琴乃の悪意ある解釈であったと気付いたのか、橋本が口元に手を当て、微笑みながら近寄ってきた。
それを見て樹人が宣言する。
「それじゃあ、少し散歩にでかけようか」
コイツも少しはリーダーが板についてきた気がするな。
森に響く鳥の鳴き声を聞きながら、俺達は散策へ繰り出すことになった。
利益探偵と不信探偵 春野仙 @harunosen
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