病院に行くのを渋ってとりあえず症状をネットで検索してしまう問題の評論家、モグラ太郎先生の回

音楽(トゥットゥットゥ〜タラララ〜ン♪)


パーソナリティ いちかわさとる: みなさん、こんにちは。いちかわさとるです。教養ラジオ「アルテスの中庭」です。放送第8回になる今回は、「病院に行くのを渋ってとりあえず症状をネットで検索してしまう」問題の評論家、モグラ太郎先生にお越しいただきました。先生どうも、今日はよろしくお願いします。


モグラ太郎: ろくなこと書いてないよね。


い: 病院行きましょう。


モ: いやや!怖い。


い: でもネット上の方が怖いことが書いてあるんですよね。


モ: うん。でもそれは見てしまうんよ。あてになる診断じゃないのはわかってるんやけど。でも、生命に関わるようなことが書いてると(さすがにそんなことないやろう)とか思いながらも気づいたらクリックしてる。


い: いわゆる怖いもの見たさですね。


モ: 「本当にあった怖い話」とかもついつい読んでしまう。怖がりやのに。なんか、ない?怖い話。


い: 怪談をするんですか。


モ: うん。夏やし。


い: 学校の怪談ですが「赤い紙、白い紙」はご存知ですか。


モ: トイレで声がする話な。トイレの個室で紙がないことに気づくと「赤い紙いらんか〜白い紙いらんか〜」て。


い: そう、それです。「赤い紙」と答えると切り裂かれて血まみれに、「白い紙」と答えると白い手が伸びてきて冥界に引き摺り込まれる。ある日学校でトイレに入ったユウタくんも、その話は知っていました。


モ: ふむ。


い: そして例によって紙がないことに気づき声がするわけです。「赤い紙いらんか〜白い紙いらんか〜」と何度も聞きます。知ってますか、この状況で助かるには黙っていないといけないんです。何も答えてはいけない。


モ: そうやったか。


い: ユウタくんもグッと声を押し殺していました。やがて声はしなくなり、厭な気配も消えました。しかし、紙はないわけです。


モ: そらそうや。


い: それはそれで困ります。どうしよう、と思っていると誰かトイレに入ってきた音がしました。ユウタくんは助けてもらおうと「すみません。紙がないんですが、もらえませんか」と個室から声をかけました。そうすると子どもの声がして「いいよ、ポケットティッシュもってるから」と答えてくれました。ゴソゴソとランドセルを探る音がしたあと、「赤い紙と、白い紙があるけど、どっちがいい?」


モ: ああ…。終わってなかったんや。


い: という話です。


モ: それでユウタくんはどうなんの。


い: さあ、不意を突かれて何か答えてしまうんじゃないですか。


モ: 死んでまうやん、ユウタくん。その、トイレの外にいたのは子どもじゃなくて何か人ならぬ怪異の存在なん?


い: そうだと思います。


モ: それやとおかしい。誰も人間が生き残らんなら語り伝える人がおらんなるやん。だからそれなら、トイレに入ってきた子どもが「紙もってない?」て個室の中から誰かに聞かれたとしてや。


い: もう一人の子どもからの視点ですね。


モ: そう。それで鞄を探したら赤いのと白いのが見つかったから、「どっちがいい?」て何気なく聞いた。そうして「白」と答えが返ってきた瞬間に叫び声と水の流れる音。勝手に扉が開いて、中には誰もおらんかった、と。こっちの方がいい。


い: 引き摺り込むのに加担させられたんですね。


モ: そうそう。「本当にあった」ということは体験者は生き残ってるはずやから。


い: まあ作り話ですから。


モ: 「本当にあった」て言われたら登場人物の少なくとも一人は死なんはずやから、安心して感情移入できるやろ。


い: なるほど。


モ: そういうルールがあるわけじゃないけど。ぼくとしてはお約束にしてほしい、ていうだけ。


い: 安全な場所からの視点を与えて油断させて、感情移入させてから怖い目に、というテクニックは基本ですよね。


モ: ああ。あるわ、それ。ある…。ほんま厭らしいわぁ。


い: 作話の場合ですけどね。体験者の語りではなくて。


モ: 本も文字もまだなかった時代って村の長老がすごい重要視されてたと思うねん。まあ今もお年寄りは大事やけど、もっと切実に。長老の体験談が。生き残った人の話を聞いとかんと、他に情報源がなかったから。


い: 生命の危機に対処するための情報ですね。


モ: 食べたらあかん草とか、猛獣から逃げる方法とか、集落の爺さん婆さんから聞いてはずなんよ。その長老たちは生き残ったから物語ることができる。怖い話をつい聞いてしまうのも、そういう話を聞たがる人が情報を得て生き残ったからやと思う。その名残りやわ。


い: それが本能的な欲求なら、それが事実かどうか、確かな情報源かどうかという検証はときになおざりになるでしょうね。


モ: そう、理屈じゃないんよ。


い: しかし、病院は行った方がいいですよ。


モ: うっ…。


い: 症状って何なんですか。


モ: 奇しくも似た話になるけど、トイレしたあとに便器に真っ赤な血がついてる。


い: で、検索すると?


モ: ガンやとか言われる…。


い: 色が鮮やかな血なら、痔で肛門の入口近くが切れているだけじゃないですか。


モ: 出口や。


い: 内臓疾患ならおそらくもっと暗い色の血が出るような気がしますけど。


モ: せやろか。


い: どうなのでしょう。それでは今日はこのあたりで。教養ラジオ「アルテスの中庭」、放送第8回でした。今日は「病院に行くのを渋ってとりあえず症状をネット検索してしまう」問題の評論家、モグラ太郎先生にお話しいただきました。先生、今日はお忙しい中お越しいただきありがとうございました。それではまた来週。ごきげんよう〜。


音楽(トゥットゥットゥ〜…


モ: さっきのただの痔って、ぜったい?


い: 医者ではないのでわかりません。


モ: 100%?


い: 絶対ではないですって。


モ: 100.0000000…


い: それつける意味ないですよね。


モ: 確証をくれ!


音楽(…トゥルットゥタラララ〜ン♪)


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