第44話 新たな仲間

 俺達はカイナ村で古くて年代物ではあるが念願の木製の機織り機5台を買い付けることが出来た。

 古い機織り機だが、ドワーフ族が俺達の仲間になっているので木製のもろい部分を金属製に変えて改良することが出来るだろう。 

 5台の機織り機と大量の反物を荷馬車ならぬ荷牛車に積み込んだ。・・・5台の機織り機は分解しても通常の荷馬車なら1台の機織り機で一杯になる大荷物だが、巨大牛が引く荷牛車だとこれだけの荷物を載せてもまだ余裕がある。


 俺の持っている魔法の袋に入れればこのぐらいの量は余裕ではいる。

 それでも、この機織り機等をカイナ村の村民の前で魔法の袋に入れることはできない。

 魔法の袋自体が国宝級どころか大帝国級のお宝で垂涎すいぜんの的であり、これを手に入れるために持ち主は命を狙われる事もあるのだ。・・・いくら俺でも命は惜しい!

 荷物を積み込み中にアンドレの母親が


「アンドレだけでなくアンドレの兄弟達3人や機織り機の技術指導者としてアンドレの3人の妹達もあんた達の砦に連れて行ってくれないか?」


と言う。

 その他にも人頭税がかかって困る10歳になる年頃の男女が連れて行ってくれと何人も集まっている。

 それにわりと年嵩の精悍せいかんな男や女達もいる。


 この男や女達はアンドレ達兄弟を始めこの村からアマエリヤ帝国の騎士になっていた者で、アンドレの関係で不当に解雇された。

 女達もアンドレの事件からアマエリヤ帝国内でカイナ村出身の巨人族が白眼視され始めて、傭兵家業の口が無くなってきた。

 これでは傭兵家業では食っていけないので狩人にでもなるかとと考えて一度カイナ村にいたのだ。


 それで白眼視されているアマエリヤ帝国よりも現女勇者を旗印に建国しつつある国に最初から参加した方が良さそうだと考えて集まったのだ。・・・国か⁉砦を強化して城塞都市化して、周辺のエルフの隠れ里やドワーフ族の里を支配下に置き始めたのではたから見ればそう見えるのか!

 男女の巨人族のなかにはかなり遠方から駆けつけてきた者も多いようだ。

 俺達がカイナ村から城塞都市に帰る準備をしていると、なにやかやで連れて行ってくれと言う者が多くなって大世帯になった。


 樵のアンドレの兄妹等6人の他には、従兄妹の10歳位の男の子12人と女の子12人、アマエリヤ帝国の騎士団に勤めていた者がアンドレの関係で白眼視されて辞めたり、傭兵家業の男女が20人も集まってついて行く事になった。

 傭兵家業は男8名で女12名だ。

 傭兵家業の女12名は


「私達がどんなに頑張っても女性はめったに騎士にはなれないが、女勇者が現れて、その女勇者が建国しているというこれは女性騎士になれる絶好の機会だついて行くしかない!」


と口々に訴えた・・・というので今後も女性騎士希望者が多くなるかもしれないいのだ。

 その他にも機織り職人の指導者として2組の家族が行く事になった。

 その一組が何と樵のアンドレの長男夫婦だ。

 長男夫婦が言うには


「アンドレの兄弟全てカイナ村から出て行くのはやはりアンドレがアマエリヤ帝国の騎士団の脱走兵扱いを受けている為なのだ。」


と力なく語った。

 それに、将来的にはアンドレの両親も砦に逃げ出してくるような事態になるかもしれない。

 俺達について行く2組の家族には子供がまだいなかった。

 これで元巨人族の末裔は男25名、女29名総数54名が俺達と共に城塞都市に行く事になったのだった。


 元巨人族の装備はお粗末だ。

 アマエリヤ帝国の騎士団の金属製の鎧や兜、両刃の剣は辞めた段階でおいて置かなければ、窃盗の手配を受けることになる。

 それで、お手製の皮製の鎧と手には未だに石斧だ。


 お手製の皮製の鎧と言っても粗末な貫頭衣風の物か、酷い者にあっては男は腰に獣の皮を巻き、女はそれに乳房付近を獣の皮を巻いているだけだ。

 織物の村のカイナ村でも織物はアマエリヤ帝国の帝都での販売品になるので、命をかけて稼いでいる傭兵家業の稼ぎでも手に入らない高級品だ。


 それに手に持っている斧といっても戦斧(バトルアックス)という程上等なものでない、巨人族の体力でやっと木を切れる程度の石器時代の石斧だ。

 鉄製の斧は城塞都市に行けばドワーフ族の鍛冶師が打ってくれるので、土産品で持ってきた鉄製の斧は全てカイナ村の住民の手に渡しているので、彼等には石斧で我慢してもらっている。


 城塞都市への帰り道は行き程大変ではなかった。

 それでもカイナ村にほんの5日程の短期間での滞在ではあるが、土魔法で舗装した道路が流石生命力の強い魔獣植物が藪となって生茂おいしげり元通りになっている。

 今回も巨大牛の群れが生茂った藪を踏み潰し食い潰す。

 地竜の赤子3匹がその荒れた道路をならしていく。


 それに加えて樵のアンドレを始めとする巨人族は器用に残った魔獣植物の根を抜き取り、さらに石を敷き詰め直していく。

 俺達も彼等に協力して木魔法や土魔法を使って道路の整備をし直すので、補修作業がはかどる。


 実はこの道路造りもカイナ村内部でも反対があった。

 アマエリヤ帝国の軍隊が攻め込みやすくなるという事だが、俺達が住む城塞都市はアマエリヤ帝国の地方領主の館とはほぼ反対方向になるので比較的安全な道路であり、有事の際に俺達が救援に駆けつけやすくなるのだ。

 それで、アンドレの父親が未だ村長と言う立場を利用して


「有事の際もさることながら俺達の城塞都市とカイナ村との交易が優先される。」


と言うことで皆を説得して道路を造る事の許可されたのだ。

 行きは単にカイナ村(巨人族の村)へ早く着く事を考えて道を急いだが、帰りは藪を払って、道路を破壊する藪で元の原生林のような状態に戻らないような立派な道路造りもしたこともあって2週間以上かかってしまった。

 それに以前のドワーフ族の里までの道路と同様に切り倒してあった木材を使って、宿場も造っていったのだ。

 どうしてもこれくらいの時間はかかる。


 カイナ村での買い物を終えて、およそ1ヶ月ぶりの城塞都市への帰還だ。

 この旅で一回りも二回りも大きくなった地竜の赤子3匹に加えて、100頭以上の巨大牛の群れ、そして通常人の倍の体の大きな巨人族が付いて来たのだ。


 まず俺達を見つけて人族で人頭税の関係で10歳になる前に棄てられた汚い格好の子供達が浮浪者の様に集まって来て口をあんぐりと開けて俺達を見つめている。

 時ならぬベビーラッシュで子宝が増え、食糧事情が悪化してきたエルフ族の隠れ里から移住してきた子供を抱いたエルフ族の夫婦が不安そうに見ている。

 そしてドワーフ族の里においても地震騒ぎでいち早くドワーフの国に逃げ出したのは良かったが、その後の火山性ガスの噴出でドワーフ族の里に帰れなかった者が噂を聞きつけて集まっており彼等も不安そうに俺達を見ている。


 城塞都市で俺達を見つめている住民の数が異常に多くはないか⁈

 浮浪者のような子供達はここへくれば飢えることが無くなると知って集まり。

 ドワーフ族についてはドワーフの国からドワーフ族の里の住人について来た陶芸家集団がさらに増えているようだ。

 ドワーフの国内では鍛冶師より地位が下で、同じ土魔法の使い手だが白眼視されていた陶芸家が家族や弟子ごと集団として集まって城塞都市について来たのだ。


 新たに加わったエルフ族の子供を抱えた夫婦は5組15名程だが、浮浪者のような少年達も100名ほど、ドワーフ族の陶芸家集団の人数だけでも100名を超えるようだ。

 それに加えて俺達が連れて来た巨人族が増えた。

 城塞都市の人口が急激に増えた!

 それに巨大牛の群れが二組で150頭以上いる。


 これは大変だ!

 しかし何をする。

 すると砦に残っていたザルーダの爺さんが


『カンカンカンカン』


と吊るした鐘を叩いて俺達を見ようと集まっていた連中の気を逸らす。

 ドーンとソドムの双子の兄弟がザルーダの爺さんの側の焚火の日に大きな鍋をかける。

 その大きな鍋からスープでも作ったのか良い香りが流れてくる。

 残っていたエルフ族の巫女やドワーフ族の女性達が折り畳み式の机や椅子を運びこみ焚火を中心に並べる。

 さらにその女性達がカゴ一杯に色々な種類のパンを入れて現れると手際よく木の皿に何個か乗せていく。


 集まっていた連中が鍋に集まっていった。

 俺の腹が

グーッ

となった。

 それはそうだ丁度太陽が中天に輝く昼だ。


 俺達も昼食のために椅子に座る。

 食後皆も集まっているので今後の事を相談しよう。

 食後、ザルーダの爺さんがまたも


『カンカンカンカン』


と吊るした鐘を叩いて集まっていた連中の注意を促す。

 ザルーダの爺さんが大声で


「今後の事について話し合いたい!

 話は議長が必要なのでエルフの隠れ里の村長だったザルーガに努めてもらう。」


 と言って第一回の『城塞都市会議』が始まった。

 議長のザルーガさんが


「私が議長を務めるザルーガです。

 議題の第一が、村と呼べるほどの人が集まって来たので、人の管理の為に村役場を建ててまずは、村長や助役、収入役の三役を決めなければいけません。


 議題の第二が城塞都市に色々な人種の人が集まってきましたが、それが何方でどんな特技をお持ちか確認するために人別帳を作りたいと思います。


 議題の第三が集まった方の衣食住の関係を良くしなければいけません。

 人種もそうですが職業等によって住み分けが必要になってきます。」


 取り急ぎ決めることはこの三点だ。

 村、砦・・・いや見栄を張って城塞都市か、第一議題の三役の決定だ。

 意外に無投票で三役はスムーズに決まった。

 現勇者の真が市長(村長)で、ザルーダの爺さんとソルジャーのおっさんが副市長(助役)、俺が収入役だ。・・・問題は俺だ!この世界に来て物の売買は巨人族の村で機織り機等を始めて買った。ものの相場が分からないのだ。価値観も違う、貨幣制度がどうなっているかも良く分からないのが現状だ。


 住民把握の人別帳、前世で言う住民基本台帳は女官のシンディが今までは一人でつくっていたが彼女だけでは手が足りなくなってきた。

 それで人別帳、住民基本台帳を作り手の募集を行った。


 エルフ族は隠れ里でありドワーフ族も天然の障壁が噴き出す里にいた事から税や人頭税とは無縁であった。

 それゆえに子供達は10歳以上になっても棄てられることは無く、落ち着いた環境で教養を身につけることが出来たのだ。

 一応エルフ族もドワーフ族も寺子屋のようなものがあって識字率が高く、教養を身につけていたので彼等の中の数名が応募して事なきを得た。


 ところがこの作り手の募集で問題が見つかった。

 問題は人族、ドワーフ族の国から来たドワーフと今回カイナ村からついて来た巨人族だ。

 10歳になったら人頭税の関係で棄てるのだからと教養が施されていない、それでそれらの人々は自分の名前すら書けない者が多い。 

 特に巨人族は性格が思った以上におおらかで傭兵家業どころか騎士になっても賃金を騙される者が多い。

 これは契約書を良く読めないからだ。


 このことは第二回の『城塞都市会議』の議題にした。

 黒板に今回の議題を書いた。

 黒板の書いた議題の意味が分かったのは、エルフ族とドワーフ族の一部の者だけだ。

 ドワーフ族の国から来た人達もやはり人頭税の関係で子供を捨てるので無駄と思われる教養はなされていない。


 何はともあれ城塞都市に戻って村役場より先に最初にした事は、そんな無教養な子供が多い事から学校を造る、建てることにしたのだ。

 砦に来ているエルフ族の巫女のうち最年長の方に学校長をお願いした。

 最初は建物は無くても野原に黒板を置いて授業が行われた。

 これは好評で誰でも授業を見学出来るうえに参加も出来るからだ。

 城塞都市の住人は直ぐに自分の名前を書けるようになった。


 朝、授業の前に子供達に体操をさせる。

 そのうち子供達に混じって住民達が体操を始めた。

 体操の後、武術の訓練の為に子供達に木剣を持たせて素振りをさせた。

 見ていた住民達が手頃な木の枝を持って見よう見まねで振りだした。


 段々と住民全体の体力が向上して、種族の交流も行われるようになっていった。

 学校も建てたがこの青空授業は続いた。

 それに学校には軍事教養課程や武道教養課程なども併設して、人族やドワーフ族の国から来た人、巨人族の年長者も気軽に入学できるようにした。


 新たな仲間を迎え入れて城塞都市周辺は人口が増えたが、それによってまだまだ問題が山積されている。

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俺と彼女は、異世界へ召喚された。 いのさん @kiis907595

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