第43話 アンドレの母親の呟き
私は
そのアンドレの命の恩人と言う別の世界から召喚された女の勇者様とその下僕の大男が村を訪ねてきた。
何故私が勇者様とわかるかと言うと、私には鑑定魔法の一つである鑑定眼を持っているからだ。・・・女の勇者様の頭に年齢と
『異世界から召喚されし勇者』
と吹き出しの様に書かれているのが見えるからだ。
勇者と一緒に来た大男は我々巨人族と見紛うほどの大男なのだが違う種族である。
彼の体表は我々巨人族の体表よりは薄い茶色であり、我々巨人族が10歳以上の大人になると頬に発現する男は黒い紋様で女は白い紋様の痣が入れ墨のように現れるのだが、彼にはその紋様が現れていない。
見た目から20歳以上だと思っていたが鑑定眼によると勇者様と同い年の16歳だと言うから驚きだ!
エルフ族やドワーフ族の女性達が20名程が興味深げに店内を見てまわっている。
なかでも女勇者とともに大男にくっ付いて離れない可愛い女の子達はどうだ。
一人はエルフ族の隠れ里の村長の娘でアリアナだという。
この村でも知らない者がいない程有名な魔法使いザルーダ様の一番弟子で私の息子のアンドレの馬鹿が捕まえた女の子だ。・・・見た目で騙されてはいけない大男にくっ付いている中では一番の年長者だ。
人間属で
流石に放逐されたといっても伯爵家に連なるものだ、昔から仲が良かったという女官のシンディという者が供としてついている。
それと双子のとんでもなく可愛い女の子達もいる。
二人の名前はアンソワーとアンドリューと言うそうだ。
今まで話しにしか聞いたことがない天使族と言う種族の子供達だ。・・・不味い私が鑑定眼を持っているのがばれた。天使族の子供達に思念で警告された。これ以上鑑定眼を使ってこの子達を探るのはよそう!
勇者達が迎えに来た我が息子の樵のアンドレの話をしよう。
息子は10年程前にカイナ村を一度出ている。
10歳になるとアマエリヤ帝国の人頭税がかかることから、10歳になる前に自ら村を出たのだ。
頼る先はアマエリヤ帝国で騎士として働いている、上の3人の息子達のもとだ。
その頃、私には5人の息子とお腹の中には子宝が眠っていた。
長男長女以外で10歳以上になったら課せられる人頭税は厄介なものだ。
普通村には出来た農作物等に7割以上の税を課せられている、その他にさらに人頭税を家々に課していくのだ。
それも極端に重いのだ。
長男長女以外の子供には夫婦二人分以上の人頭税がかかる。
この村では棄てた子供に復讐されるのが嫌で手足を折ったり切ったりする者はいないが、奴隷商に子供達を売る家は多い。
この村はかなり背が低くなっているが巨人族の末裔で男でも女でも力が強い働き者なので奴隷商に高額で取引されるのだ。
特に女の子は稀少種族の巨人族ということで、好事家・・・(格好良く書いたが本当はスケベ親父だ)・・・にこのまれて取引をされる。
当然、子供達は奴隷商に売られるのを嫌がる。
背が低くなってきてると言っても、一般的な人に比べれば体の大きな巨人族は男でも女でも傭兵になる者が多い。
この世界は、まだ法整備が整っておらず、村同士の土地争いや水争いの場合直接戦うことが多い。
村人同士が戦うわけではなく、傭兵を雇って戦うのだ、それで傭兵の需要は多い。
傭兵は戦いの無い日は冒険者と言うか狩人として生活をしている。
魔獣襲撃による作物ばかりではなく盗賊や山賊が村々を襲い人的被害が出ることがある。
この場合狩人が雇われて魔獣や盗賊等を討伐するのだ。
傭兵や狩人としての知名が上がれば男は騎士団に入ることも可能だった。
男尊女卑のこの世界では女性騎士は滅多にいない。
いるとしても腕の立つその国の貴族の婦女子で、女王や第一王女の護衛に当たっているほんの僅かな者ばかりだ。
雇用の口が無いので、これではいかに腕がつ女性傭兵でも女性騎士にはなれないのが普通だ。
家を出た私の息子4人が共にアマエリヤ帝国の第一騎士団に採用されたと聞いて喜んでいた。
丁度そのころ、夫は村長に私はこの村の特産品である織物の協会長になっていたので、私の人生の絶頂期だった。
その後3人の娘が次々と生まれ、娘達は私の影響もあってか物心がついた幼い頃から機織り職人として働いていた。
次女が10歳近くになり、家族で人頭税について話し合っているそんな時に、あろうことか一番下の息子アンドレが皇太子ともめて騎士団を辞め、その後色々あって戻って来たのだ。
皇太子ともめたというがそれは、何でも尊敬する騎士団長が行方不明になり、何かと偉そうにして巨人族を毛嫌いしている皇太子のジンクーンが任命されて、査閲式の最中に貧血で倒れた同僚を助けた際に一方的に殴られて辞めさせられたそうだ。
アンドレは騎士団を辞めて狩人か傭兵になるため直ぐ村に戻ってくるかと思っていたが、やめた直後にその原因となった相手の皇太子から大金をせしめたそうだ。
それは、今私の目の前にいるザルーダ様の弟子のエルフ族の少女を捕まえただけで、毛嫌いしていた皇太子から金貨100枚も
その大金のほとんど全部は次男サイコスが預かっていた。
次男は分隊どころか小隊を預かるほどの人物になっていた。
次男に大金を預けると直ぐにアンドレは酒場に酒を飲みに行って、周りの人に酒を振る舞い酒場を出たところでぷっつりと行方不明になってしまった。
アンドレは騎士団を辞めさせられているのに、辞めさせた張本人の皇太子によって脱走兵として扱われた。
それを知ったサイコス達兄弟は何か巨大な悪意を感じて、アマエリヤ帝国の皇太子で現第一騎士団長の手を逃れるべく先手を打って騎士団に辞表を提出してこの村に逃げこんだ。
第一騎士団としては風聞が悪いのでアンドレの脱走に手を貸した罪として解雇されている。
問題のアンドレは秋深まる頃、先に戻った兄弟達を追うように馬に乗って村に逃げ込んできた。
アンドレの話では、大金をせしめた相手の皇太子の手によってしばらく地下牢に閉じ込められていたそうだ。
原因になった捕まえたエルフ族の女の子は名高い魔法使いザルーダ様の弟子で、その弟子をいたぶることで魔法使いのザルーダ様に禁忌の召喚魔法を使わせたようとしたのだ。
禁忌の召喚魔法で私の目の前にいる女性の勇者様と昔の巨人族のような大男が呼び出されて、その女性の勇者様と大男、そして魔法使いのザルーダ様にアンドレは助けられたと話していた。
アンドレが逃げ込むと同時期に雪が降りはじめ大雪になった為に、この村の交通が遮断されてしまった。
この村では私の息子達をどうするかでもめた。
アマエリヤ帝国の皇太子で現第一騎士団長の不興を買っているのだ、いつ何時アマエリヤ帝国の軍隊が押し掛けてくるかわからない。
それでも交通が遮断される雪の降り積もる間、息子達はこの村にいる事が出来るようになった。
雪が溶けて偵察も兼ねてアマエリヤ帝国の様子を見に行商隊が出発した。
帰ってきた行商隊からはアマエリヤ帝国の皇弟が亡くなり、息子達の問題はとうに忘れ去られていた。
一人の国の実力者が亡くなったのだ。
微妙な政治的な問題が発生している。
しばらくの間なら息子達を村において置けることになった。
そんなある日息子を助けた大男と女性の勇者様達が村に息子のアンドレを尋ねて現れたのだ。
大男が連れて来た女性達の衣装をオーダーメイドする他に、統一した制服それに水着の製作、機織り機の大量購入、そして支度金まで支払ってもらって機織り機の技術指導者として機織り職人を彼等の本拠としている城塞都市にこれないか尋ねてきた。
私の目が輝いた。・・・渡りに船だ!
アマエリヤ帝国の帝都だけでは織物の販売が頭打ちになってきている、販路拡大にも良い話だ。
それにオーダーメイドか、それだけでなく既製品か?
既製品等と言う考え方など無かったのだ、大量に製品を作って安く売る等と言う考えも無かった。・・・薄利多売の考え方か!
それにもう一つ実は長女にはかからない人頭税も、次女にはかかる。
その人頭税には私達は頭を抱えているのだ。
長女とは年子の次女がもうまもなく10歳になる。・・・頬に巨人族特有の白い紋様の痣が浮き上がり始めたのだ。
その時は家からこの子を捨てるか奴隷商に売らなければならない。・・・私から見ても十人並みの顔立ちをしているが性奴隷にはしたくない!多数の男の慰みなる等不憫でならない。
残りの下の娘達も来年、再来年になると同様な悩みに苛まれることになる。
自分の3人の娘は機織り職人として実力をつけてきており、独立の工房を持ちたいと思っている。・・・本当に渡りに船だ。
制服の作製もうちの3人の娘が中心になって行えば利益が独占できる。
3人の娘の他にも、10歳前で人頭税に困っている姪っ子4、5人に当たってみよう。
息子達は早いうちに独立してアンドレのように傭兵から騎士団になった。・・・体が大きいので直ぐに騎士団に雇ってもらえたのだが、ただ今回の事件でアンドレは脱走兵として手配を受けて、上の息子3人も脱走に手を貸したとか、連帯責任だ等と言って解雇されて家にいる。
アンドレは当然として、上の息子達もアマエリヤ帝国の皇太子がいつ難癖をつけてくるか分からないので、できればアンドレとこの3人も連れて行ってもらうか。
等と考えているうちに大男の連れの女の子達が村での買い物が終わって戻ってきた。
私は商談中の大男に
「機織り機と機織り職人は手配する。制服の件も分かったわ。」
と答えて、商品の支払いの段になった。
私は大男の着ている服が気になった。
首には高い襟があり、胸には6個の金ボタンが付いている。
袖にも少し小さめの金ボタンが2個づつ付いている。
大男が言うには学生服と言う制服だそうだ。
『金ボタン』
と言う物を初めて見た。
中は空洞で、金色に輝いているが金ではないそうだ。
これが同じ重さの金で作ったら倍以上の金額になるだろう。
桜の模様が打ち出されているが、これを武田菱の紋に打ち出せれば同じ重さの金で作れば3倍の金額になる。
武田菱は初代の勇者武田信虎様がつけていた紋章であり、この世界では異常に人気があるからだ。
話し合いの結果、今後武田菱の紋様が付いた金ボタンで売り買いすることになった。・・・実はボタン自体が思いついていない。衣服は殆どが紐で縛るのだ。
それで参考の為に大男から学生服を預かった。
大男は同様の学生服の上下とシャツを着替えとして持って来ていると言って預けてくれたのだ。
しかし、学生服の縫製技術が凄い、均一な縫い目等超一流の職人が縫ったものだろう。
それにポケット等と言うもの付けられている。
今までも衣服の内側に隠しポケットのような物があるが、これほど機能的で品よく付けられていない。
学生服の下に着ていたシャツにも驚いた。
白っぽいボタンや胸ポケットそれに絹のような手触りだ。
貴族でもこれほどの物を着ていない。
私の職人魂に火が付いた。
大男は手付だと言って大人の拳ほどの大きさの金の塊1個を置いていった。
私は鑑定魔法を使うってその金塊を見ると、ほぼ混ざり物が入っていない純金だった。
アマエリヤ帝国の金貨でさえ混ざり物が多い、金塊ならばなおさらのことまがい物が多くて信用が置けないが大男の持ってきたものは、凄く良い物だった。
これだけの金塊なら今回の買い物に御釣りがでるほどだ。
それに彼等の持ってきた鉄製の斧や生活用品の鍋や釜も凄く良いものだ、持ってきた物だけで物々交換しても御釣りがくるくらいだ。・・・彼には言っていないが、わかっているようだ。
大男は今後の事もあるのでと言って金塊を渡してくれた。
大男は目的の古い機織り機や織物を大量に買ったので自領の城塞都市に戻ると言う。
良い商談が出来た!
あとは機織りの技能のある娘や脛に傷持つ息子達についてのお願いだ。
それにできれば人頭税がかかる10歳になる同年代の子供達についてもお願いしたいものだ。
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