第8話



「どこ行くの?」



 深夜に外の空気を吸おうと扉を開けた時にサヤから声をかけられる。



「散歩だ、あと見回り。まだ体が熱くて眠れそうにねえんだ」



「行ってらっしゃい気をつけなさいよー」



「分かってるって、なんかあったら呼ぶさ」



 興味を失くしたように再び布団に潜る彼女を尻目に部屋を出ていき村の中を歩いていたときに背後から声をかけられる。



「よおライル、あんたまだ寝てなかったのか」



 少し話をしたいと思っていた老人の言葉に驚きつつも言葉を返す。



「それはこっちのセリフですよ、あんな状況じゃ休めてなかっでしょうに」



「なに明日の不安がなくなっただけでも十分よ、それに一度あの子抜きで腹割って話しておきたくてな」



「アリアのことです?」



「そうだ、あの子は別に儂の血の繋がった孫じゃあない。村のある夫婦の元に生まれたんだがそれからすぐに流行り病でどっちも死んでしまってな、それで俺が引き取ったのさ」



 老人の言葉に困惑しながら言葉を紡ぐ、言っていることは分かるのに意図が分からない。



「……なんで俺にそれを」



「老人の勘だ、それにいつまでも俺がいられるわけじゃないしな。だったらあいつのことを色眼鏡で見ないあんたらに知って欲しかったってのもある」



「昔何かあったんです?」



「この村じゃあ無かったんだが、昔ちょっと遠くの街に用があって一緒に出掛けてな。その時に気味悪がられてからあの子は村の外に出たがらなくなった」



「気味悪がられてって何があったんだ」



 よくある話ではある、祝福持ちや精霊術師、魔術師は理解がない土地では恐れられたり迫害されるというものだ。おそらくこれもその一つではあるだろうがそれにしてはアリアは物怖じしない善良な女の子であったように思われる。。



「あの子は昔から精霊が見える。凄い精霊術師はそれができるっていうけどその街もその時の儂らもそんな知識はなくてな、おかげで何もいないとこに話しかけてる変な子供扱いさ」



「なるほどな」



「その辺あんたらは詳しそうだし正直言うならあの子を任せたいくらいだ。事情が分かってるからそんなこと言わねえけどよ」



「悪いな、でも会ったばかりの奴をそこまで信じるのもどうかと思いますよ」



「そっちもジジイの勘だ」



「そう言われたら言い返せませんけどさあ」



「それでだ、そっちも儂に聞きたいことがあるんじゃないか」



「……お見通しか、まあ聞きたいことってのはアリアのこととこいつのことだ、まずアリアは祝福持ちなのか?」



 そこにあった巨大な樹であろう焼け落ちた残骸に手を触れながら俺は真正面から爺さんを見つめ問いかける。



「そうだ、さっきも言ったが精霊、あと幽霊とか俺には見えないものを見えるみたいでな。感応の祝福だとよ」



「それなら都合がいいな。教国は祝福持ちってだけで歓迎されるしそれ用の仕事も用意してもらえる」



 それはそれはとニヤリと笑う爺さんに次の質問、本来一番聞きたかった質問を投げる。



「このデカい樹、アリアは神樹だって言ってたけどこいつはなんなんだ?」



「そんな大したもんじゃないはずだ、儂の生まれるずっと前からあったっていうくらいの樹なのは間違いないがそれくらいだぞ」



 だから皆から親しまれていたという言葉も真実なのだろうがそれだけではないはずだ、せめて他に知っていることがないかとわずかな希望にかけて続ける。



「そうか……俺の生まれ故郷にも似たような樹があってな、何か関係あるんじゃないかと思ってたんだが」



「そりゃあ何かあるだろ、それが何なのかまでは知らんがよ」



「だよなあ……すいません何か問い詰めるみたいになって」



 うん、無駄だったな!



「目的のためにがむしゃらに突っ走れるのは若者の特権だ、それなら最後に一つ聞いてくれや」



 クラウスさんは気にするなと笑いながら真剣な眼で、そしてそれ以上に優しい眼をしていた。



「あの子がまだ笑ってられるのは仲良くしてくれてるあんたとサヤって子がいるのとまだ全部無くなっちまったってことを受け入れられてないからだ。いつかあの子が本気で泣きたいときが来るだろう」



「その時はあなたが一緒にいてやればいいんじゃないです?」



「こいつを伝えたのは儂からの礼だ。いきなりあの子が泣きだしたらあんたも大変だろ?儂も若くないしいつまでもいられるわけじゃないしな。おっと腰が!」



 腰を抑えて大げさに痛がるふりをする爺さんにそいつは間違いないと言って俺たちは顔を見合わせて笑う。



「話も聞けたし休んでもいいが村の人たちの埋葬があるなら手伝うぜ」



「なんだバレてたのか、殆ど燃やされちまったがそれでもせめて埋めるくらいはしてやりたくてね」



「同感だ、それじゃ女たちが起きてくる前に終わらせちゃいましょう」



 それから数時間かけて俺たちは帝国の奴らに殺された村人の埋葬をした。外から見て目立たないように置かれていた彼らの死体を探し穴を掘っては埋めるという作業が終わるころにはいつの間にか夜も明けかけていた。


その間昔のアリアの話、旅の間で通った面白い村、サヤと戦った魔物の生態などとりとめもないことを話しながら部屋に帰った時にサヤに遅くなったことを責められそうだなあと思っていたのだった。

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白刃のリベリオン ~村を焼かれた青年はなんでも斬れる魔剣を手に帝国へと復讐せん~ 連理 @renri-writer

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