第7話
「ねえねえ、なんであなた無事だったの?」
再びアリアが新しく掘ってくれたトンネルを進む。
「ライルさんが教えてくれたんです。あの人は勝てないって分かったら全部巻き込んで何かをするはずだから何が飛んで来てもいいように壁を作って風を纏っておくようにって」
「へー、上手く考えたわね」
「そりゃあこれだけ帝国の奴らを相手してたら慣れるさ、アリアのおかげで最初から硬いってのは分かってたし死ぬ気で爆弾持って突撃されてたら危なかったしな、上手く引き付けられたのも運が良かったよ」
相変わらず帝国騎士というのはよくわからない。外道だったり手段を選ばなかったりするが死ぬときは差し違えることを恐れない、まさに狂信者というのが一番しっくりくる。
「分かっていても私だけじゃどうにもなりませんでしたしお二人がいなかったらどうなっていたか……」
「サヤは別段何かしたわけじゃないけどな」
「あなた私が剣に力宿してるからあれだけ斬れるって忘れてない?」
「覚えてるよ冗談だって」
「サイテー」
「流石に今のはどうかと思いますよ」
一気に女性陣から責められとりあえず爺さんに話を振って話題を変えることにした。
「悪かったよ、そうそう爺さん歩くのキツかったら言ってくださいよ」
「まだ歩けなくなるほどではないのでな、助けてもらってそこまでしてもらうわけにはいくまい」
「ここまで来たんだ、それくらい大した手間じゃないですよ」
「すまない、なら肩を貸してもらえんか」
「お安いごようです」
そのまま体重を預けてきた爺さんと歩き続けるが困ったことに会話の引き出しがない。
仕方がないので体調や年齢など当たり障りないことを聞いてさっきの話題に戻らないようにしているとアリアから声がかかる。
「もうすぐ出口ですよ、帝国の人もいないらしいです」
「それならよかった……待ってくれ本当に誰もいないのか」
「はい、大地の精霊に聞いてみたんですが遠くに行ってしまったみたいです」
「妙だな、まるで逃げるみたいに」
「さっきの爆弾じゃない? 仕留めるためじゃなくて勝てない相手が出たって合図用だったとか」
「なるほど、だったら今日明日はこの村は安全だろうし休んでから出ていくとするか」
サヤとこれからの行動について話していると地上にたどり着く。そのまま話を続けていると全員が出てきた辺りでアリアから声をかけられた。その震えた声は初めて会った時と同じようなものだった。
「……あの、お二人はどこに行くつもりなんですか」
「次の目的地は教国だな、世話になってる人とそこで待ち合わせがあってさ。ここに寄るよう言ってくれたのもその人なんだ」
「でしたら──」
「ならアリアを途中まででいいからどこか安全なところまで連れて行ってくれないか? 虫のいい話かもしれんが頼れるのがあんたたちしかいないんだ」
爺さんから頼み事をされた……とはいえここまでは考えていたことでもあった、
「お爺ちゃん……」
「隠さず言うが俺は帝国に恨みがあって復讐しようって組織の一員だ、ついてくれば巻き込んじまうし狙われる危険もある」
「あなた反帝国同盟って堂々と名乗ってなかった? それに初対面で帝国許さねえとかべらべら話してたじゃない」
「茶化すなって今爺さんに話してるんだから、えっと名前聞いてなかったですよね」
「儂はクラウスだ、アリアの育ての親兼ジジイだ。あんたの名も聞かせてくれ、恩人をあんたって呼び続けるのもなんか気に入らねえしな」
あんな目にあったというのにカラカラと笑う爺さんのおかげか危険が去ったというのが分かり自然と笑みがこぼれる。
「俺はライル、そしてこいつが──」
「サヤよ。ライルの剣の精霊だと思ってちょうだい」
謎のポーズでドヤ顔をするサヤはおいておく。
「ライルにサヤか、改めて助けてもらったこと感謝する。そしてさっきのことも分かったよ」
「お爺ちゃん、私は──」
「それでもだ、いけるとこまででいい。この子を連れて行ってやってはくれないか」
「そのつもりだ、それに勿論爺さんも」
「本当にいいんですか」
「なあに最初からそのつもりだったんだろ? だったら変に遠慮なんかするんじゃないって」
先ほどから俺と爺さんを交互に見ながら不安そうな眼をしていたアリアに声をかける、話も聞いていた……実際は聞かせていたのだが少しはこれで安心してくれたのか声の震えは収まっている。
「この子だけじゃなく儂までか? 足手まといになるぞ」
「気にするなって、弱いやつ見捨てるんなら帝国と同じさ。礼なら今日ここの宿もう一回借りるからそれでいいぜ」
「本当にありがとうございますライルさん! なんてお礼を言っていいか」
「何度も礼言う必要は無いって、今夜は爺さんについててやりな、まだ疲れてるだろうし俺もそろそろ汗と砂流して休みたいしな」
そう言って繰り返し頭を下げ礼を言う二人を背に俺たちは宿に向かう。
「ねえいいの安全なとこに連れてくとか言っちゃって」
「いけるとこまでだ、教国まで連れてけりゃいいがそうもいかねえ、教国の領地のどこかまでだろうな」
「こういうのもなんだけどさ、あの子の力があれば結構楽だと思うよ旅。それに地面が掘れるなら地下から──」
「サヤ、心配してくれるのはありがとう。それでも俺は巻き込みたくないんだよできるだけ」
「……あなたはそういうって思ってたわ。いいのよ言っただけだし」
そしてそれから宿に着くまでどちらも一言も発することはなかった。
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