第6話



 これ以上奴と話を続けても引き出せることはないだろう。入口が狭いから帝国の奴らが来ることは無いだろうが長引けば捕まってるアリアの爺さんも心配だ。



「話は終わりだ、くたばれ外道」



「断る、まとめて殺させてもらうぜ。お前も巫女も」



「「死ぬのはテメエだ!!」」



 同時に吼えた俺たちは地面を蹴り距離を詰める。


壁を砕き破片と土煙でこちらの動きを誘導して破壊力のある一撃を叩きこもうとするヴァレルと即死の斬撃を叩きこむ隙を探す俺、必要なのはどちらも一瞬なのだが地の利を取られている以上そうはいかない。



「逃げ回ってばかりじゃ俺は斬れねえぞ、大人しくぶちのめされやがれ」



「逃げてるわけじゃねえよ叩っ斬るための準備中だ」



「言うじゃねえか、ならこいつはどうよ?」



 何かを懐から取り出しこっちの地面に向けて投げつけてきたそれを口を覆って跳んで回避する。



「なんだこれ──」



 言い切る前にそれを踏みつけながら真正面から突っ込んできた奴の突進を紙一重に躱し──



「痛え!」



 足元のそれを踏みつけた瞬間激痛が走る、肉の抉れる感触を感じながらもそこから引き抜き向き直る。



「東洋のマキビシっていうらしいぜ、本来逃げ場奪うためのもんだし毒は塗ってないから安心しろや」



 余裕な口ぶりのまま次々と蹴りを繰り出してくる奴の攻撃を捌きつつも確実に後ろに追い詰められていく。



「ライルさんそのまま飛んでください!」



 後ろから聞こえるアリアの声に応えて後ろに飛ぶと目の前に壁が現れる。



「ありがとうござます、おかげでお爺ちゃんは逃がせました、このまま逃げましょう」



 先ほど来るときに頼んでおいた避難道は作ってくれたようだ、無数の壁を作ってもらったからどこにいるか当てられるまでの時間は稼げるだろう。



「いや、それは出来ない。こいつらを放っておけば確実に君たちを追ってくるだろうし帝国に連絡がいけばこいつらとは比べ物にならないくらいの奴に狙われる、だからここで倒す」



「その気持ちは嬉しいんですがどうしてそこまで……?」



「俺が個人的に帝国に恨みがあるだけだよ、だからアリアが気にする必要はないし巻き込んでるのはこっちも同じさ」



「なら私にも戦わせてください、助けてくれる人に全部任せて逃げるなんて嫌なんです」



 真正面からこちらを見つめてくるアリアの眼に断っても聞かなそうだと感じながらも一応言っておくことにした。



「……俺が負けたら全力で逃げるなら構わないけどそれでいいなら」



「はいっ、お爺ちゃんも連れて行かなきゃいけませんし」



「そもそもアンタが負けた時点で追手が増えてアウトって言ったばかりじゃない、巻き込みたくないならもっと上手い言い訳考えなさいよ」



「うるせー」



 いつの間にか実体化したサヤの軽口に反論できないのはいつものことだが顔を見合わせて笑っているこの二人はいつこんなに仲良くなったんだかと女同士の友情の早さに驚きつつ作戦を考えるように頭を働かせる。



「でもどうしたらあの人を止められるんでしょうか?」



「協力してくれるんだろ?だったら一つ策がある」



 少し作戦を練っていると壁にヒビが入り次の瞬間にはそこから穴が広がり奴が……ヴァレルが現れる。



「見つけたぜ。来いよライル、決着つけようや」



「そのつもりだ、ここまで来てくれた時点で勝負はついてるんだよ」



「言うじゃねえか!」



これがこの村での決戦になるということを確信して俺は剣を構え、真正面から向かってくるやつを迎えうつ。




「巫女と一緒に死ね!」



 真っすぐに打ち込まれたヴァレルの大剣を足で蹴り飛ばしその勢いで剣から壁へと跳躍しその勢いで首をめがけて斬りかかる。



「見切ったって言ってんだろ!」



 予想通り避けられるが放ってきた拳の一撃を剣でくりぬいた地面で目くらましをしつつ回避する。戦っていて分かったがこのヴァレルという男は態度こそ攻撃的だが常にリスクのある行動は避けるように動いている。離れれば岩、近づけば軽いジャブを繰り返しいつでも引けるようにしているため


そのままでは仮に攻撃が通ったとしても指一本、運が良くても腕一本を奪う程度に抑えられてしまうだろうしそのまま逃げて部下を呼ばれた場合俺は良くてもアリアと爺さんまで守るのは厳しい、となると相手の必殺の一撃にカウンターを狙うか油断させて一撃で仕留めるしかない。



「遅え遅え遅え!」



 拳が肌をかすめ瓦礫が肉を抉ってくる、軽いものとはいえ一撃でも喰らえばそのまま畳みかけられて吹き飛ばされるだろうがあの二人を傷つけさせないようにこちらに注意を向けなければいけない。だから無意味に見える行為を繰り返し続ける。



「今度こそ完璧に追い詰めたぞ、巫女は近くにいないし逃げ場もない。どうした何とか言ったらどうだ?それとも死ぬのは怖くなったか?」



 奴の安い挑発を鼻で笑って受け流す。



「何がおかしい?」



「チンピラの騎士気取りに笑えただけだよ、そんな服に身を包んでも本性は隠せないんだってな。初めて村に来た時の化けの皮はどうした?」



「悪いな元チンピラでよ、だがそんな奴に殺されるテメエはそれ以下だぜ」



 奴はそういうと嗜虐的な笑みを浮かべて拳を俺の顔面に向けて振り下ろそうとする。



 そして俺は剣を引き抜きその腕を斬り落とした。



「は?」



 それを認識した瞬間に大きく跳び退いたせいで首は斬り下ろしたそこねたが今度はこちらが奴に向けて剣を向ける。



「なんだその速さ……さっきまでのは演技ってわけか」



「戦いに関しては頭が回るようだけど油断したな、格下しか相手にしてねえのが悪い」



「油断? 実力も経験もテメエのが上で相性も最悪。勝てるわけがあるかよ」



「随分潔いな、戦意のない相手を斬るのは好きじゃないが先に殺しに来たんだ、文句はないよな?」



「無えよ、だが──」



 言い終わらないうちに振り返り走り出し残った手で何かを背後に向けて投げようとする……がその前に残った腕も斬り落とす。



「残念だったな」



「いや、俺の部隊に与えられた最期の任務は果たさせてもらう」



 ニヤリと笑う奴の奥で爆音が響く。



「俺の祝福は分離したものは対象外でな。巫女は殺した、さあ殺れよ」



 覚悟の決まり具合を勘違いしていたことに舌打ちをして心臓を貫く。



「俺を殺したんだ、せいぜい埋もれ死ぬような真似はするなよ」



 ヴァレルが絶命したのを見届けた俺は呟く。



「帝国の奴らは自分が正義だと思ってるから厄介だよほんとに」



「それでもやるんでしょう?それより早く逃げないとまずいわよ」



「安心しろ、さすがにあんなやり方してくるのは想定外だったけどアリアを狙ってくるのも爆破も想定内だ」



 そう言って少しすると地面の振動が止まる。



「ライルさんこっちは大丈夫です、今のうちに逃げましょう」



 地面が隆起し天井を支えているのを見ながらサヤに告げる



「ほらな」



「ドヤ顔やめなさいよ、とっとと出るわよ」



 もう少しねぎらってくれてもいいのにと愚痴りながらも自分が殺した相手の冥福を祈りながら俺たちはアリアが顔を出して手を振っている穴の方に向かう。



 俺たちは今回も生き延びて守り通せたのだと胸を張りながら。


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