第27話 初体験
ユズが胎動を感じたすぐ後、お父様も胎動を感じていた。
同志だと思っていたのに、すごい速さで裏切られた。
だが私は結局、出発の今日この日まで胎動を感じることができないでいる。
でもまぁ、仕方ない。
産まれる前から嫌われてしまったのか……考えると切ない。
「次会うのは、産まれた後ね。それまで元気でいるのよ? 」
ぽこん
手のひら越しに、かすかに感じる動き。
こここここっこれは……………!?
「たたたたたたたた胎動!いっ、今胎動が動いた! 」
感動の余り、胎動を感じた手のひらをユズに向けて、アワアワする。
ユズは、分かるよ、というように頷きを返す。
「胎動が動いた、は間違った言葉の使い方ですね」
くっそ、殴りてぇぇぇぇぇ!!!
でもユズを殴ったら、せっかく胎動を感じた手のひらの感覚が台無しになってしまう!
ぐぬぬ………。
イライラMAXになったので、癒しを求めてお母様のお腹に再び手を当てる。
「動いてくれてありがとう。アナタのお姉様は、行ってくるわね。次に会えるのは、アナタが産まれた後だけど、ちゃんと元気でいるのよ? 」
ぽこんぽこんっ
それはまるで、お姉様行かないで……という赤ちゃんの訴えみたいに思えて。
「赤ちゃんもこう言っていることだし、学園に行くのは延期するわ! 」
「はーい、馬鹿なこと言ってないで早く行きますよ〜」
私の決意も虚しく、ユズにズルズルと引きずられて行く。
「アリー、元気でいるんだよ? 」
「心配しないで、アリー。しっかりと元気な赤ちゃんを産むわ。だから、アリーもしっかりお勉強頑張るのよ? 」
「お父様、お母様、私もう少しここにいるわ! 」
両親と抱擁を交わした後、再度訴える。
「ユズリア、悔しいけどアリーのことを頼んだ」
「ユズリアがいるのなら大丈夫だと思うけれど、アリーのことよろしくお願いね」
「かしこまりました。リアム様、オリビア様」
両親もユズも、私をガン無視で事を進めていく。
え、待って、嘘でしょ?
このままだと、学園に出発しちゃうじゃない!
「待ってぇ、せめてもう1回胎動を感じさせてぇぇー! 」
願いも虚しく馬車に押し込まれた私は、何とも締まらない感じで学園都市に出発するのであった。
悪役令嬢に転生風~無表情執事を添えて~ 猫野 肉球 @nekononikukyu-punipuni
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