第26話 胎動チャレンジ



「ね、ねぇ。学園ってどうしても今行かなければならないのかしら? 」


「相変わらず往生際が悪いですね、アリー様」



 お母様の妊娠発覚から約半年後。

 今日、学園都市【ナミヤ】の王立魔法学園に旅立つことに。

 だが、自称諦めない女である私。

 ギリギリまで粘りの交渉を見せている。

 結果は思わしくないのだが。

 私が何故ここまで粘り強い交渉をしているかというと。


 ズバリ!!!

 胎動をこの手で感じていないからである!


 お腹も随分と大きくなっているお母様。

 お腹の赤ちゃんも随分と元気なようで、動き回っているらしい。

 だがお母様以外で一番初めに胎動を感じたのは、ほんっとうに憎たらしいことに、ユズである。




 それはお母様と私、ユズでお茶を楽しんでいた時のこと。

 お母様から胎動が始まった事を教えられていた私たちは、胎動を自分も感じてみたくて、何かにつけてお母様にベッタリだった。



「あ、今動いたわ」



 お母様のその言葉に。

 シュバ!と音がしそうなくらいの素早さで、しかしお腹に当てる手は繊細に、という器用な技を披露して、胎動チャレンジを行う。

 しかし、お腹に触れた手の平からは何も感じない。


 くそぅ……今回も失敗か。

 思わずため息をつき、肩を落とす。

 というのも、お母様の動いた!という声に手を当てること数十回。

 全て、空振りに終わっているから。

 何かを察するのか、お母様のお腹に手を当てた瞬間、胎動はピタリとなくなるのだ。

 胎児なのにこの瞬発力、恐るべしである。

 お母様もそれを感じたのか、眉根を寄せて困ったように笑う。



「オリビア様、お腹に触れてもよろしいでしょうか? 」



 そしてその日初めて、ユズが胎動チャレンジに参加表明をした。

 今まではお母様に遠慮していたのか、興味深そうな目で見つめるばかりだったのに。

 いや、やっぱ訂正。

 ユズの目に興味深そうな色とかなかった。

 だって目死んでるもん。



「いいわよぉ」



 お母様は、死んだ目をしている無表情なユズにも快く返事する。



「「あ」」



 手がお腹に触れた途端、ユズとお母様が短く声を上げる。

 私は先程から嫌な予感が止まらない。

 冷や汗まで流れてきた気がする。

 いや、ないよね?

 さすがのユズでも、主人を差し置いて、まさか………よね?



「動きました。すごい、感動です」



 感動さが全く伝わらない、死んだ目・無表情・棒読みのトリプルコンボ。



「てっ……!!」



 テメェこの野郎!と言いかけたが、さすがに公爵令嬢的にはアウトなのでグッと抑える。

 一番最初に胎動感じちゃいけない奴だろお前!

 せめてそこはお父様だろ!


 余談だが、帰宅後ユズが胎動を感じたと聞いた時のお父様の表情、あれは怖かった。

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