20××/12/××

「……みんな、ありがとう」

 あれから数年。

 ようやく例の病気が収まって、ライブハウスに人を入れられるようになった時期。ホログラルームは念願のライブを開催した。俺は大トリに選ばれた。

 持ち曲3曲を歌い終わり、俺の姿が無くなる。その途端、ファン達から響く期待。アンコールだ。

「……ありがとう。アンコールに応えます」

 歓声が響く。

「今から披露する曲は、俺の大切なヒトが遺してくれた曲です。その人は今、俺の届かない場所に居ます」

 会場が静けさに包まれる。

「この曲が、皆に伝えられる日が来たのが嬉しいです。そして、もうここにはいない……あいつにも」

 長く静かなイントロが始まる。

「俺とあいつから皆へ。バーチャルの世界から送る歌を。聞いてください。『encore』」


 会場のボルテージが最高潮に達する。

 俺は大きく息を吸い、歌う叫ぶ。

「それじゃ……ラスト一曲。盛り上がっていくぞ!」


 聞こえてるか、高梨。如月逸火。志村愛香。

 俺はようやくステージに立てたよ。

 お前が遺してくれた曲を。『encore』を歌ってる。

 お前が居なくなってから、もう何年も経ったよ。お前が死んだと聞いて、暫く立ち直れなかった。

 情けない話だよな。

 でも結局、現実を受け入れて生きるしかなかった。けど、それが出来たおかげで今、こうして歌えてる。

 悔しさも、絶望も振り切って。

 こうして皆の前で歌うのが、楽しいんだ。


 お前は、自分なんて放っておけなんて言ったけどな。

 考えたけど、やっぱお断りだ。

 俺はお前を置いて遠くになんて行かねえさ。

 お前との思い出も、後悔も、そしてこの曲も。一緒に連れて、上を目指す。

 お前さえよければ……そこから見守っててくれ。

 なってやるさ。

 なりたい自分に。皆から愛されるシンガーに。


 歌に乗せた想いは、バーチャルだって、現世だって飛び越えられる。

 そうだろ、愛香?

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届かない場所からアンコールを MukuRo @kenzaki_shimon

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