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 あれから……何日が経った?


 俺がもぬけの殻になっている間、身内だけで葬儀が執り行われたそうだ。

 こんなに配信活動を中止していると、入ってくる収入もほとんど無い。

 そして、運営からも流石に心配のメッセージが届く。

「あれからだいぶ経ったけど、そろそろどうかな?」

「このままだと、雇用そのものに関わってくるからさ」

「君も、もう大人になる時期だよ」


 何も聞き入れたくない。

 何も受け入れたくない。

 妄想の中に居たい。

 俺はまた布団に潜り込む。


 あいつを失ってから思い知らされた。

 俺は、あいつがいないと何も出来なかった。

 上を目指すことも、実力を磨くことも。

 あいつを超えたい、肩を並べたいという思いだけが、俺を引き立てていた。

 あいつがいないと駄目だ。

 あいつが何かの嘘で、蘇ってくれりゃ、また俺は生きていけるのに……。


 けど、現実は甘くない。

 受け入れなければいけない。

 いつまでも死んだ目で生きるのはやめないといけない。

 だが、その前に――


「初めまして。天喰真悠……です。娘さんのお葬式、行けなくてすみませんでした」

「……いいのよ。さ、上がって」

 俺は……あいつの実家へと向かった。心の準備が出来たら来て欲しい、と伝えられた場所だ。そして、高梨の本名が『志村愛香しむらまなか』である事も伝えられた。

「娘がうつになった時、あなたが助けてくれたってあの子が言ってたわ。会社の皆さんも、色々支えてくれたみたいで」

「俺は……何も出来ませんでした。あいつの力になれてるって思い込んで。そのせいで」

「あまり自分を責めないであげて。ずっと悲しんでたらあの子はもっと悲しむと思うから」

「はい……」

 ずっと悲しむ、か。愛香のお母さんはもう受け入れたんだろう。取り残されたのは……俺だけ。

 俺は、この空虚感と絶望感から立ち上がれるのだろうか。

「それと。あなたへ渡して欲しいって娘がね」

 そう言うと、1枚の封筒を渡される。

「見てもいいですか」

「どうぞ」


 俺は封筒を開ける。中身は1枚の手紙。


『天喰真悠君

 君がこれを読んでいる時、私はもう自殺していますよね。

 私の気持ちを伝えます。

 私が苦しい時、一緒に話を聞いてくれてありがとう。

 しょうもない話に付き合ってくれてありがとう。

 君のおかげで、辛い時期を乗り越えられました。

 けど、やっぱり私は駄目でした。

 誰かを疑う気持ちを、どうしても捨てられませんでした。

 こんな汚れた心で生まれてきてごめんなさい。

 偽物の笑顔で皆を騙して、ごめんなさい。

 どうかこんな私に、区切りを付けさせてください。


 お互い進むべき道は違うから。

 私の事なんて放っておいて、君はさらに上を目指して。

 どうか皆から愛される、素敵な歌手になって。

 それが、私の一番の望みです。



 もし、最期にわがままを聞いてくれるなら。

 君にこの曲を授けます。

 最初で最期の曲、『encore』を。

如月逸火より』


もう1枚の便箋には楽譜が入っていた。曲名は『encore』。


「……あいつは、馬鹿野郎です」

 クソ、なんでだ。

「こんな手紙残すくらいなら、俺に直接言ってくれりゃ……」

 止められねえ。

「何が……偽物だよ……汚れた心だよ……お前はいつも……っ!」

 やばい。泣く……!

「どうして、こうなっちまったんだ……俺はっ、ああっ……」

 俺は耐えられなくなって、机に伏せる。

 そして……ひたすらに、泣きじゃくった。


 あいつを超えるだとか、そんな事はもうどうでもよかった。

 あいつが傍にいれば。

 いや、あいつが生きてさえくれれば。

 もうそれだけで十分だったんだ。


 俺の、かけがえのない大切なヒト。

 もう届かない場所にいる、大切なヒト。

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