戦う者の悲壮な宿命

 戦闘機パイロットの男性と、背に黒い翼を持つ退役兵の少女の、出会いと戦いの物語。
 空戦もののSFです。舞台は少し未来(2023年)の沖縄・南西諸島、ただし背中に天使のような翼を持つ「有翼人」というものの存在する世界。この有翼人というのはSF的な(=時代が未来になったが故の)存在ではなく、どうやらこの物語世界にはもともと存在している種のようで、そういう意味ではある種ファンタジー的な面もあるかもしれません。設定の起点そのものはファンタジー的であっても、その上に組み上げたものがしっかりSFしている物語。
 そしてその有翼人の少女、ルースさんが本作最大の魅力です。設定面での面白味を一手に引き受けると同時に、物語の事実上の主人公でもある。この辺、ネタバレになる(と言っては大袈裟ですけど、どうせなら本編を読んで知った方がいい)ので仔細には語りませんけれど、活躍もしますしなにより単純に格好いいです。彼女の決意とそこに潜むドラマが好き。
 しっかりSFしているという満足感がありながら、決して難解ではないところも素敵です。手に汗握る戦闘のシーンもあり、戦う人々の覚悟や葛藤をも描いた上で、わずか約5,000文字の尺に収まっているのもすごい。サッと手軽に読めてしまう掌編でありながら、しっかり必要な中身の詰まった作品でした。エンタメらしさというか、娯楽作品してるところが好きです。