3600秒の物語【企画参加作品】

貴音真

第1話

『落ち着いて聞いてくださいと言っても無理な話なので端的に言います。この世界は三十分後に滅亡します。私は今から家族の元へ行っても間に合わないのでこの場を借りて家族へ伝えます。今までありがとう。愛しています』


 突然の事だった。

 夜9時を過ぎた頃にテレビで、SNSで、動画共有サイトで、あらゆるメディアで突然同時に流されたその映像の内容は信じられないことだった。

 アメリカは大統領が、イギリスは女王が、日本は総理大臣と天皇が、それぞれの国を代表する人々が同時に行ったは、地球滅亡の告知だった。

 多くの人々はそれを受け入れることを拒んだ。

 信じることも信じないこともせず、ただただ聞き流していた。

 しかし、多くの人々がそれを受け入れられない中で、受け入れざるを得ないという事態が起きた。

 テレビやネットが一斉に停止したからだ。

 そして、その数分後には電気が停まり、世の中は一瞬にして闇に包まれた。

 それをきっかけにして多くの人が滅亡を真実だと信じたが、それでも多くの人はそれを偽りだと言った。

 しかし、信じる信じないは関係なかった。

 闇に包まれた瞬間から、人々の暮らしは一変し、人の心が破壊された。

 映像が流れた二分後にメディアが停止し、その二分後に電気が消えた。

 悪夢のような二十六分、地球滅亡までの二十六分が始まった。


「いやあああああ!!!」


「助けてえええええ!!!」


 まず最初に力で劣る女と子供が襲われた。

 男は狂ったように身近にいる女や子供を物のように扱い始めた。

 そして、その後は女と子供を助けるために男を殺し始めた。しかし、次は助けたやつが同じことを始めた。

 たった数分で意味もなく人が殺された。

 恨みもない。目的もない。快楽もない。

 ただただ絶望をまぎらわすためだけに人が人を殺した。

 人が狂うまでの時間はたった数分のことだった。

 一人が狂えば連鎖して狂う。

 人と人との繋がりも便なツールに頼って心と心で繋がっていない現代人は脆かった。


「くそ!ふざけんな!これがのやることかよ!」


 俺はそれが許せなかった。

 目の前で女が、子供が、男が、老人が、見知らぬ人々が殺されるのが許せなかった。

 それでも俺は助けることをしなかった。

 滅亡まであと九分。

 俺にはやり残したことがあった。

 俺は走った。

 必死で走った。

 想いを伝えたくて走った。

 俺は子供の頃からずっと好きだった女の子の家へと走った。


(頼む!間に合ってくれ!)


 残り七分を切っていた。

 俺は最期に想いを伝えたかった。

 どうせ死ぬなら後悔はしたくない。

 いや、から俺は走った。

 途中で二度、殺されかけた。

 一度目は意味もなく車で人を轢き殺すやつに轢かれそうになった。

 二度目は子供を犯す男から子供を助けようとして殺されかけた。

 その時、俺はそいつを殺した。

 俺が助けた子供は首を絞められて既に死んでいた。

 俺は走った。

 そして、残り四分の時、俺は好きな女の子の家の前に着いた。

 玄関の扉は開いていた。


(まさか…!?)


 嫌なイメージが頭を過った。

 狂った人間が押し掛けてきたのかもしれないと感じた。

 俺はその子の名前を叫びながらその子の部屋へ向かった。

 その子はいなかった。

 部屋の中には男が三人死んでいた。


「くそおおおおお!!!」


 俺は悲しみと怒りの混じった叫び声を上げた。

 その時だった。


しゅん……そこにいるの?」


 俺の名を呼ぶ声がした。

 俺は窓を開けた。

 向かい合う部屋の窓、俺の部屋の窓からその子が俺を見つめていた。


「会いたかった…」


「私も…」


 残り一分だった。

 俺は俺の部屋にいるその子と互いに窓を乗り出してキスをした。







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3600秒の物語【企画参加作品】 貴音真 @ukas-uyK_noemuY

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