ハクビシンに負けたガリバー

谷中 鶯

ハクビシンに負けたガリバー

鬱の時は、世界が薄墨色に見える。

鳥の空音も、キイキイキイと

ぐるぐるに絡まった宇宙線が

風に煽られたような

歯が浮くような音に聞こえる。


ただ鬱のときは、神経が研ぎ澄まされてるから

烏が卵を産み落とす音。

街ネズミがこっそり引っ越す音。

蚊が人の生き血を吸う音。

庭の紫陽花の葉っぱの上にいる妖精が手を振ってきたり。

道端のタンポポの陰にさっと隠れる者を見つけたり。

なんかが聞こえたり、見えたり。


生きていくためになんの必要もないことばかりだ。


ばかばかばかばか!

もうもうもうもう!

やめたいやめたいやめたい!


見えない力が、頭を締め付ける。

身体も手足もガリバーみたいに

ベッドにぐるぐる巻きにくくりつけられる。


仰向けにベッドに横たわりながら空をみる。


夕暮れに、電線を器用に渡るハクビシンと目があった。


「おめえ、バカだな。まだそんなところにいたのかよ。」


言い捨てて嫌われもののハクビシンは夕暮れの街に消えていった。

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ハクビシンに負けたガリバー 谷中 鶯 @uguisuyanaka

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