傷跡の指紋

XALEX

第1話 僕は外でChewing Gumが捨てられない

麻衣:Mikio, 幹生...もう間に合わないよ 早く!

幹生:Wait! Wait a few minutes!


Well...僕は外でChewing Gumが捨てられない

ソレは自分の何か大切な何かを剥ぎ取っていく行為にも似て

到底怯えてしまうのだ

例え、路上で配布される広告入りのティッシュペーパーで

さえ、なんだか一度自分が手にしてしまうと愛着が湧いて

捨てるのが悲しくなる。もっと大袈裟に誇張していうならば、

その物質も呼吸をして息付いているように感じてしまうんだ

だから、もう、僕は、Chewing Gumは買わない

たとえ誰かに貰っても、心でThanksをいい、又ソレを誰かにあげる

ソレが僕のルール


麻衣はまだ何も僕のこの潔癖性的な性質を知らない

それでいい

こんな事、女の子に告げられるはずもないから


だけど一番困る事がある

これだけはどうしょうもないんだ

Well, 女の子とHした後の始末についてだ

使用済みのティッシュペーパーをそう簡単には捨てられない事実

僕はイマジネーションを働かせる

ましてや、僕の体内から湧き出た愛の結晶の証を

そうは簡単にティッシュペーパーに丸めてトラッシュにポイと

そんな事簡単に出来るはずがない


いつか女達は知るだろう

潔癖症で神経質すぎる変態な僕を

そして何て下らない男なんだろうってね


一体僕はいつになったらこの潔癖症な性質から抜け出せるんだろうか?


それは幼少期の頃に遡る


僕の最愛の父が神に召された

それから僕は喪失体験における心の不全感を感じるようになる

僕が5歳の頃、父が海外転勤になり単身赴任で僕達家族を置いて旅立った。

その年のクリスマスの夜、パリから届いた一通のクリスマスカードと

僕と3歳上の姉へのギフト


「Merry Christmas Mikio」

「フォトフレームの片方にはパパの写真を入れたよ。

もう片方には幹生が好きな写真を入れてね」


愛する幹生へ

パパより

From PARIS


僕は父が書いたクリスマスカードの上から更に愛を込めて

その言葉達をなぞった。

涙で雪の結晶が溶け出して、うっすらとグレーに変わるまで


「Merry Christmas Mikio」


何度も何度もなぞってみた


次第に僕の思いは深い湖となり、その涙の上にパパへの敬意や

様々な感情を混ぜて、更になぞっていく

僕のその指紋は傷跡となり、やがて執着へと変わるまで

執行に何度もなぞった


父はその年の終わり、帰らぬ故人となった


それが僕達最後の男同士のやりとりだった


母と3歳年上の姉は僕が入り込めない女の世界観があるように思えてならない。

ファッションの話や姉のボーイフレンドの話ばかりしてる

僕は、僕はどちらかと言えば父と似て、孤独なちょっとナルシスティックな

少年だと思う。


僕はね、外でゴミが捨てられないんだ!


せめて傷跡の指紋をつけるまでは...ゴミはね、呼吸しているんだ


だから僕は自分で傷つける


物事には正しい方法順序があり、なんでもその通りに出来ないと

ストレスを感じるのにも似てる

僕の事、変態だとか変わり者すぎるとか思われても仕方がない


麻衣:幹生早く!遅れちゃうよ!幹生!Mikio!


僕は心の中で何度も叫んだ!

Everything's All Right!


どうしてだろうか?

遠い昔、山に登る途中、このシチュエーションを記憶している

確か山の入り口は湖の右側の木の枝が絡まっているそこから始まり、

ランダムに険しくなり、更にどんどん登っていく


僕はこの瞬間の森林の匂いと湖のエメラルドブルーが混じり合う

アブストラクトなアートをイメージしていた

実際、色彩なんて匂いなんてもうグチャグチャで

一瞬時間が止まる瞬間をこよなく愛していて、そんな自分がやけに勇しく

感じるんだ


カレイドスコープの中を游泳している気分さ


麻衣の言葉の破片がそんな僕を更に究極の未知の世界へと誘い

僕をどんどん侵していくんだ


そして昨夜の始末の御行儀悪いティッシュの行方を

イマジネーションしてニヤけていた


A-1ミーティングルームはフランスに輸出する新商品のプレゼンが始まっていた

KOUさんが既にプロダクトのディテールを発表していた


遅れてきた幹生と麻衣を横目で、一瞬チラッと視線を合わせようとしたが、彼等がそれを軽蔑視

した


KOUさんはどちらかというと、Evangelist(エバンジェリスト)でもある。

聞き慣れない言葉かも知れないが、新しい技術を世の中に広めていく為にセミナー講演や、

メディア取材を受けたりするいわば伝道師とでも言える存在。


麻衣とKOUの付き合いはもう1年になる 偶然にもジムのトレーナーは同じだった

ある日、麻衣がジムに行った時、確か外資系の麻衣ちゃんと同じ商社の男性がいて、

彼は僕の長年のクライアントさんだよって、そんな事の始まりから麻衣はKOUの事を

知らされたんだ


二人は職場でもPVでも全くそんな事話さずにいたので、麻衣がKOUと付き合いだして8ヶ月目に

わかった事


こんな必然的な事ってある?

正しくも運命だよ


あなたはSOUL MATEの存在を信じますか?


麻衣はどちらかと言えばスキニー体質であるが、海外セレブのようなバランスの取れた

ボディーを絶望してる 細いなりにもバランスよく筋肉がついていて、動いた時にも”美”を

感じられるようなそんな身体が理想

トレーナーをつけてまだ1年程であるが、かなりいい感じにバランスが均等になってきた


KOUは延々と新商品のディテールを事細かく話している


幹生と麻衣は隣同士に座り、パソコンを出し、イタリア産のスパークリングウオーターを

まるでゲームしているかのような秒数で同じタイミングでデスクに置いた

なんて息の合ってるカップルなんだろうか?周囲にはどう見てもそう思える


KOUは何気に真衣の視線の行方を追った


なんかもうこの空間は三角関係の危険な匂いがした


真衣とKOUは最後にHしたのは2ヶ月前

もう関係は終わりそうって麻衣は予感していた


奥様に縛られてるKOUが私の前でだけ見せる普通の男の子の存在

私はそんな彼が愛おしくて守りたくてそして切なかった

男の子の心の奥に潜む感情を簡単に理解する事って到底無理な事はよく理解している

でも、彼の心の内の切なさを守る事くらいは誰よりも自信ある


彼は奥様をとても愛している/ 海外生活が長いせいか、彼の思考や感性はまるで欧米人

仕事は家庭に持ち込まない/ スマートに恋愛をする/ 妻を愛する 


そんな彼はどう見ても独身だと思っていた

KOUには子供はいない


プレゼンがいつも通り終わり、ランチブレイクの頃には、麻衣はKOUからのLINEを受け取る

毎日の習慣 この日はなぜかランチブレイクの途中、いつもより早くKOUからのメッセージが来た



KOU:お疲れ麻衣 今日のプレゼン、ギリギリはまずいよ

もうちょっと早くに来て欲しい 笠原にも伝えておいて


麻衣:ごめんなさい KOU...了解!


KOU:今日さ、新しく出来た西麻布のITALIANに君を招待したいんだけど...


麻衣: 今日? ごめんなさい KOU...今日はジムに行く予定

最近疲労感があるし健康管理は大事だなと思うの

次回、又誘ってください


実際疲労感なんか嘘

ジムに行く予定も嘘

私は幹生と一緒にいたいだけ


ヤバイこのままじゃ

どんどん幹生に惹かれていくじゃない


大学時代、英文科を専攻していた幹生は隣のクラスにいた

私は社会心理学を専攻していて、授業が終わるといつも校庭のテラスに駆け込んでは

Sparkling Waterを一気に飲み干す二人

毎日Made in Italyのガラス瓶入りSparkling Waterを飲んでいる


数回ドアにぶつかりそうになった事、Sparkling Waterは絶対ガラス瓶に限る

弾けるバブル感がタマラナイ そう言って笑った そんな他愛もない事思い出していた


こんな不思議な後輩もいるもんだと...


麻衣は普通に海外映画が好きで、主人公が素敵にMade in ItalyのSparkling Waterを

飲み干すシーンに影響を受けていた


幹生は幼少時代から海外移住歴の多い父の影響で、Sparkling Waterは

欠かせない日常だった


そして二人は何度か会話を交わした程度で特に記憶はない

でも1つ言えるのは、彼の瞳の温度に好感を抱いていた記憶

上手く言葉に言い表せないけど、もし私に歳の離れた弟がいるならば

母親の如く守りたい感傷にさらされるみたいな...

同情とかではなく、ただ単純に素直に守りたくなる愛され男子

守ってあげたいと大切にしたいは、ある意味愛おしいと似てる


そして何よりもガラス瓶入りのSparkling Waterが好きな事



To be continued...

XALEX


©️XALEX







































































































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