東雲先輩は、一体、なにを諦めて「生きるということは、諦めることよ」なんて言うようになったのか?
なんてミステリアスで心惹かれるヒロインでしょうか!
また、「諦めること」を主題とした連作は、諦めることの難しさとその先にある日常が瑞々しく描写されています。
決して、諦めることの可否を決めるようなお話ではなく、前向きに生きるためにはどうすれば良いか?という問いかけのようなお話です。
話数が多いな……と躊躇している方、安心してください。
とても読みやすい文体は、あっという間に小説の世界の中に引き込まれ、いつの間にか沢山読んでいる……という素晴らしい読書体験を与えてくれることでしょう!
「人生諦めが肝心」
誰が言い出したか分からないが、私はこの言葉が好きではない。
諦めることの言い訳として、安易に使われることが多いように思う。
本当は、真剣であればあるほど、諦めることは難しい。
苦しくて泥臭くて結果が出るかどうかなんて分からない、無意味なことの連続に思えてしまう。
でも一度諦めてしまうと、諦めていない誰かの姿が鬱陶しくなる。
諦めない誰かの姿に、自分の姿が間違っているかのように感じてしまう。
そう簡単ではないのだ。「諦める」という営みは。
本作は「諦め屋」という特殊な仕事(?)を行う高校生の物語だ。もう、この単語一つだけでそそられるものがある。依頼人たちはそれぞれに「諦めたい」何かをもって主人公たちのもとに訪れる。
それぞれの登場人物たちの想いが交錯し、一つのクライマックスに向かって進んでいく本作を読み終えた時、きっとあなたの中の「諦める」という言葉は意味を変えていることだろう。
良作でした。ありがとうございます。