行方

第6話 核

「う……。うぅ」


 キョーコが軽い頭痛に耐えながら体を起こすと、頬に張り付いていた砂がポロポロと落ちた。

 立ち上がり辺りを見渡した。 一際目につく大きな門のようなもの以外にはなにも、なかった。


「ヨネ……。 ゴーゴー柊号……!」


 少しずつ意識が鮮明になると共に、ヨネの絹のように滑らかな顔と、暴走して行った柊号を思い出した。


「ヨネを守らないと。 早く見つけないと……!」


 柊号から投げ出されて、ここまで転がり落ちてきたのだ。


「くそっ、どっから来たのかすら分からねぇ」


 キョーコは今にも叫び出しそうな衝動を抑えながら考えた。


「行ってみるか……」


 ただ、闇雲に歩いたところでヨネを見つけることは難しいだろう。 そう考えたキョーコは大きな門の方へ歩きはじめた。


「どこへつながっているんだろう」


 キョーコは一抹の不安を抱えながらも勇ましく歩きはじめた。



 門の中に入ると、入り口が閉まって激しい揺れの後に廊下の電気が点いた。

 長い廊下の先には広い空間があった。


「地震か?」


 キョーコは細心の注意を払って中へと入った。すると、そこにはたくさんのコンピューターが並んでいた。


 大きなモニターが五個とディスプレイが何台もあって無数の配線が伸びていた。けれども、ほとんどが機能を停止しているように見えた。

 何枚かの紙切れが落ちていてそこには読めない字で何か書かれていた。


「こんにちは」


 背後で声がした。キョーコは咄嗟に後ずさりし身構える


「誰だ」


「ごめんなさい。脅かすつもりはなかったの」


 目の前には五歳くらいの少女が立っていた。

 肩にかかる黒髪をつやつやと揺らしていた。


「なるべく警戒しにくい見た目にしたのですが。すいません」


 少女は見た目に不釣り合いな敬語で話しかけてきた。


「君は…誰だ?」


「私はこの星の核と環境などの管理を担当していました。エディーと申します」


「エディー…?カンリ…?」


 エディーというその少女は真剣な眼差しでショーコを見つめた。


「今すぐこの星から逃げてください」


「え?」


「もうすぐこの星は自らの重力により崩壊します」 


「ま、待ってくれ。管理とか核とか訳がわからん。僕にでもわかるように話してくれないか」


 エディーは巨大なモニターのひとつを起動した。そこには、この星の構造が映し出されていた。


「この星は人工的に作り出されたのです。地球人によって」


「人工の星?」


「はい。他の地球人には内緒で、政府の人間の中でも極少数の人間だけで会議を繰り返して。研究・実験を繰り返し、ここはsecond・earth二つ目の地球の二号です」


「一号は?」


「重力のバランスのコントロールに失敗し、爆散しました」


「この星はコントロールに成功しているんだろ?なんで危険なんだ?」


「先程も言った通り、この星の重力は最初こそ安定していましたが、時間が経つにつれて不安定になっています。いつ自壊が始まるか、私でも計算不可能です」


 その時、地震が起こる。どこかで何かが落ちて、割れたような音がしたが、何が割れたのか意識する暇はなかった。


「ヨネ、ヨネを探さないと!」


「今、廃材街garbage townにその方はいると思いますよ。生体反応があります」


「よし、行くぞ!」


「私もですか?私は、ここから離れる訳には行かないので」


「なぜ?そういうプログラムなのか?」


「いえ、私自身の意志です。私はこの星と共に宇宙の塵となる運命なので」


「じゃぁ、いこう!」


 ショーコはエディーの手を引いて走り出した。元来た道に向かって。


「ちょっと!私を連れてどこへ行くのです?」


「これは僕の命令だ。僕と一緒にsecond・earthここを出よう!」


「無理です。私のコアはこの星に付随してるのであって……聞いていますか?」


 ショーコは笑っていた。暗いの廊下を照らすように、眩く、目がくらむほどに。

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世界が終わったその後も、僕らは笑顔で息をする。 Lie街 @keionrenmaro

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