第5話 都市
ヨネとキョーコは昼ご飯を食べるために、比較的丈夫そうな建物の中に入った。
「たまには屋根の下で食べよう!」
「まぁ、確かにここなら崩れそうもないわね」
ヨネは左の手のひらで壁に触れた。
昔はレストランか何かだったのだろうか。床に綺麗な模様の入った絨毯が敷かれていて、イスとテーブルが置かれていた。
奥には二階へと続く階段がある。
「栄養食も残り少ないね……」
ヨネは心配そうに自分の鞄の中を覗き込んだ。
「まぁ、都市に行けば何か食べ物があるよ」
キョーコは栄養食を口に放り込みながら楽観的に言った。
目を閉じて栄養食を噛み締めながら、ふんぞり返っている。
「希望的観測ね……」
ヨネは心配そうにため息を漏らした。
「キョーコはすごいなぁ、こんな時にも前向きでいられるんだもん」
ヨネは足を体操座りのように三角に折って、大きな身体を小さく丸めた。
「それは皮肉かい?」
コンクリートのように無機質で硬い床に寝そべったままキョーコは言った。
「まさか、アイロニーを気取ったつもりはないわ」
「どういう意味」
「褒め言葉っていう意味」
「なら僕だって、君を褒めたいよ」
ヨネは膝の上に頬を乗せてキョーコの方を見た。
「君みたいに熱心に生きようとは思わない」
ヨネはキョーコの真意がわからず少しの間沈黙が続いた。
「僕ね、君が怯えてでも知ろうとして、努力して生きていることが、 それがたまらなく羨ましくて、たまらなく嬉しいんだ。 僕もそんな君の背中を見て生きているから」
キョーコは勢いよく起き上がった。
オレンジ色の髪の毛をバサバサと揺らしながらくしゃくしゃと笑った。
「キョーコ……。 私、キョーコのことが!」
ヨネが何かを言いかけたその時だった。
ヨネの背後の壁が怒涛の勢いで崩れ始めた。キョーコはその微妙な兆候を見逃さなかった。
「伏せろ!」
ヨネの身体を庇うようにキョーコが覆い被さる。
その瞬間、建物の半分が吹き飛んで真っ青な空が広がる。
二人はその衝撃波で建物だった物の外へと放り出された。
「ぐぅぅがぁあ!」
そいつの鳴き声が辺り一体にけたたましく響き渡る。
恐怖に震えて動けなくなっていたヨネを抱えて柊号に乗り込む。
「逃げるぞ!」
タブレットに触れて素早く適当に行き先を入力する。
「あいつがきっと、メカドラゴンだ!」
メカドラゴンはレーザー光線を口から出すと、柊号に向かって発射する。
キョーコは自動運転モードを解除してハンドルを切る。
「ぐぬぬっ」
柊号の真横にレーザー光線が落ちる。
ヨネが自らを奮い立たせて、声を震わせながらキョーコに自分の分析した結果を伝える。
「レーザー光線の一回目と二回目の間は約1分半、連続で打つのは無理だと思う!」
ヨネは足早に言う。
「了解!」
「加えて発射持続時間は20秒程度。 メカドラゴン自体の移動速度は30キロから40キロ。 ゴーゴー柊号の最高速度は25キロ」
ヨネは続けて早口に言う。
「要するに?」
キョーコの頭は混乱している。
ヨネが発言する前に二回目のレーザー光線が発射される。
キョーコが素早くハンドルをきって避ける。
「とにかく早くまいて! このままじゃ追いつかれる!」
恐怖に苛まれた怯えた怒鳴り声はまるで迷子の子供のようだ。 一生懸命、母親を探している。
「了解!」
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