第4話 憩い

アイトの元を離れてからも、瓦礫の山の殺風景な景色は続いた。


「なんかあったか〜」


「なんにもないわー」


2人は身を乗り出して互い違いに風景を目で追ったが、瓦礫と壁以外には特に何も見えなかった。


当たりはしんとしていて2人の声以外には何も聞こえなかった。


「そろそろとまるか、日が落ちてきた」


「そうしようかしら」


2人はゴーゴー柊号から降りて焚き火をつけた。 赤い炎が、天高く燃え上がって煙をあげる。


「アイトの飯がもう名残惜しい〜!」


キョーコはいつものようにバランス栄養食を口に放り込みながら言う。


「同感」


ヨネは栄養食をキョーコに向けて言うと、すかさずキョーコが口で迎えに行く。


すぐにヨネが手を引くと、かちんっ!と軽い音がした。


そのままキョーコはヨネに寄りかかる。


「ちょ、何よ。 急に甘えてきて」


「別に〜」


キョーコの笑い声が膝の上で転がる。


「ねぇ、ヨネ」


キョーコは仰向けになり、空を見上げる。


「なぁに?」


「空が綺麗だよ」


ヨネも空を見上げる。


昔見た星よりもずっと綺麗に見えた。


それが、この星の性質なのか、それとも久しぶりの星空だからなのかは分からなかった。


「本当、綺麗……」


膝の上から寝息が聞こえてキョーコを見ると、キョーコは大きな寝息をたてて眠っていた。


「もう、この子は本当に……」


ヨネはキョーコの頬を少しつねって含み笑いをした。


そして、キョーコの頬に軽くキスをした。


ヨネはこの広大な土地を2人で生きていくのはこの上ないくらい大変なことだと思った。


けれども、ヨネはキョーコとならば、こんな孤独な夜さえ愛せるのだった。


眠るキョーコと頬を撫でるヨネの頭上で、まるで2人のようにジェレ合いながら、2つの流星は空の彼方へと溶けていった。



「おーい……おい、おい」


ヨネは頬をペチペチと叩かれて目が覚めた。


「う…ん。 もう朝?」


「なぁ、これなんだと思う?」


「何って……」


眠気まなこを擦るとヨネの視界は段々と明瞭さを増してくる。


次に生まれた感情は気持ち悪さだった。


「うわぁぁぁああ!」


ヨネが頭をあげるのを避けるように、キョーコが素早く手を引くと、ヨネの頭がキョーコのおでこに直撃して、たまらずキョーコが尻もちを着く。


「何その気持ち悪い球体!」


丸くて白い何かに触手のようなピンクのヒダが無数に着いていた。

そのヒダはふにゃふにゃと何かをつかみたそうに動いている。


「何って、たぶんなんかの卵なんだろうけど……。 よく分からないんだよ」


キョーコは自分のおでこを撫でながら言った。


「ちょ……と、待ってね」


ヨネの理性と好奇心とが心の中で対立した。


「ピンクのヒダは、移動のため? どこかに張り付くためかもしれない。 うーん……、それにしても気持ち悪い! 早く捨てなさいよそんなの!」


ヨネは顔を背けてキョーコに捨てるように指示をする。


「えー! でもでも、成長したらどんな姿になるか、気になりませんかぃー」


キョーコはヨネの好奇心を逆手にとってこんなことを言い出した。


「気になる……」


「そーだよねー」


キョーコはニコッと笑った。


その笑顔はヨネを脅しているようにも見えた。


「……。はぁ、いいわよ」


ヨネの知的好奇心は人一倍だった。


「やっっつたー!」


「目に見えないところで飼ってよね」


ヨネはキョーコに釘を刺すように呆れ顔で言った。


「はーい!」


キョーコが久しぶりにこんなにも喜んでいる姿を見て、ヨネはフッと息を吹いて微笑んだ。


「そ、れ、で、は〜! 出発〜!」


キョーコはいつものように、或いはそれ以上に元気よく両手を掲げた。


「出発〜」


ヨネも後に続いた。


「このまま、真っ直ぐでいいのかな?」


キョーコは顔だけヨネの方を見る。


「たぶん、この舗装された道を辿っていけば着くはず」


ヨネは少し自信なさげにそう言った。


「まぁ、ヨネが言うんなら問題ないっしょ!」


キョーコはそう言って、頭の後ろで指を組んだ。

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