第3話 目標地点

「いい湯だな〜。 プシュ〜」


キョーコは口から空気が抜けるみたいに息を吐いた。


ジィさん愛用の筒状の風呂の中で茹でダコのように顔を赤く火照らせている。


「すいません。 ご飯をご馳走になった上にお風呂まで頂いてしまって」


ヨネはより一層の白くなったからだに、白いタオルを押し当て、体を拭きながらジィさんに言った。


「礼には及ばん。 客人はもてなす、それがワシのルールーなんでな」


ジィさんは細い目をより一層細くして、軽く咳をする時の様は声で笑った。


「ありがとな〜。 名前はなんて言うんだ〜」


キョーコがお湯の中からのぼせ上がった声で、ジィさんに聞く。


「ワシわなぁ……、忘れたわ。まぁ、ジィさんでええで」


「アハハ、へんなジィさん。 名前を忘れるなんて」


キョーコがあまりにも大きな声で笑うのでヨネは少し恥ずかしくなった。


「こ、こらキョーコ。 変なのとか言わないの」


「ほっほ、結構結構」


ヨネはそんなやり取りがなんだかおかしくて、少しだけ笑った。


「ところで、ヨネ殿。 先ほどはああ言ったが、この星に知的生命体がいないとは限らんのじゃ」


ジィさんは真剣な顔つきでゆっくりと話し始める。


ヨネはジィさんの顔を見て、微かな困惑の色を表している。


キョーコは風呂から上がって頭を拭いている。 こちらの話には耳を貸しているようだ。


「ワシはな他の星から来た、いわゆる探検家じゃ」


そう言うとジィさんは床に敷いていた布をどかして、地下へ繋がる隠し扉を開けた。


ヨネとキョーコは地下へ進んで行くジィさんの背中について行った。


「ここは昔、書斎だったらしい」


ジィさんはロウソクに火をつけながら言った。


「ワシはここで、この星についての資料をまとめたり、それを元に星の研究をしている」


壁の大きな本棚の中に沢山本が詰まっていて、本棚の外にも何冊もの本が積まれている。


部屋の奥側に木製の机が置かれていて、その上には何かが書かれた何枚もの紙と鉛筆が無造作に置かれている。


「わぁ! 本がたくさんある!」


ヨネは顔を輝かせる。


「埃っぽい部屋だなぁ」


キョーコはヨネほど本に興味がないので、退屈そうな目で変な模様の絨毯を眺めていた。


「ワシはこの星のことを知りたくて、色々な場所を訪れた。 しかし、何処にもこの星の知的生命体は見られなかった。 じゃが、やはり至る所に文明の名残はあったんじゃ」


ジィさんは色々な資料の写真を見してくれた。


「ワシはたくさん資料を集めた。そして、大部分の生物は突然姿を消したという結論を出した。 ここに来るまでに生き物を見なかっただろう」


2人は確かに生き物を見ていない。


キョーコは相変わらず上の空だったが、ヨネは話を真剣に聞いていた。


「しかし、この星にも生き物が全く居ないわけでない。 あくまで大部分の話だ」


「じゃあ、残りの文明人や生き物は何処に……?」


「他の惑星に移ったか、或いはどこかでひっそりと生活しているか……。 一部の生物は、数こそ少ないが生息している」


キョーコはウロウロと部屋を見回している。


「この星はまもなく終わりを迎える」


「え? なんでですか?」


ヨネは突然の発言に驚いてジィさんに聞いた。


「近頃、地震が増えた。今は少しマシじゃが……、この辺りの建物のいくつかも、その影響で崩れてしまった。 そして、規模は日に日に大きくなっている」


「そんな……。 どうすれば……!」


「分からんが、都市に行けば何か分かるかもしれん」


「都市?」


「ワシが観測した中で、この星で一番繁栄していたと思われる場所じゃ」


そこまで言うとジィさんは後ろに振り返った。


「ワシが教えられる情報はここまでじゃ、さぁ、上に戻ろう」


ジィさんは地上に繋がる階段へと歩き出した。


ヨネはキョーコの方を見た。


「行こう。 キョーコ」


「おう!」



「ありがとうな!ジィさん」


「ありがとうございます」


ジィさんはニコニコ笑いながら手を振る。


「そうじゃ! ワシの名前思い出したぞ。 アイトじゃ、アイト」


「アイト、いい名前ですね」


ヨネはジィさんに言う。


「忘れないよ!アイト!」


キョーコはそう言うと、小さな機械音とともにその場を後にした。

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