第2話 瓦礫と老人
「おー! なんか見えたぞ!」
キョーコのはしゃぎ声で目が覚めたヨネは、眠気まなこを擦りながら前をみた。
「ん…。 わぁ!なんだろう、あれ」
何やら白い人のような塊が見える。
「人っぽい。 マーカーの位置もちょうどあのへんだ」
その塊は少しずつ大きく近くなってくる。
「もう少し……。 よし、到着〜!」
「……。これ、人じゃない。 崩れた建物の壁が、人みたいに見えたんだ」
ヨネはガックシと肩を落として項垂れた。
「まぁ、そう気を落とすなよ。 生体反応のマーカーがこの辺りにたっていることは確かなんだから。」
キョーコが肩を叩くとヨネは顔を上げて、足取り重く歩き始めた。
「すごい、瓦礫が河川敷の石みたいに沢山落ちてるよ! 水切り用の石をさがしたくなるなぁ」
キョーコは興味津々で瓦礫を眺めている。
手を望遠鏡のように丸く筒状になるように指を曲げて、覗き込んでいる。
ヨネは建物全体を一望していた。
かつては村か街があったに違いないと考えたが、瓦礫の破片や廃屋からは、この星を知る手がかりなどは得られなかった。
突然辺りがグラグラと微かに揺れる。
ヨネとキョーコは互いの顔を見合わせる。
「地震……?」
ヨネの顔色が明らかに悪くなる。
キョーコは話を変えるように別の話をした。
「ねぇヨネ。なんかいい匂いしない」
キョーコは鼻をひくひくさせて何かを嗅ぎ取っている。
ヨネも耳をすませるのと同じように、鼻をすませてみると、なるほど何やらいい匂いがする。
「なんの匂いだろう。 料理してるみたいな香り……?」
キョーコはヨネの手を繋いで、一緒に行くように誘う。
「嫌だよ。 姿が見えないんじゃ危ないし、罠かもしれないんだよ」
ヨネは目に映らないものが怖かったし、目に映ったとしても、それがおぞましい何かなら怖いに決まっていると思っている。
「なら、ここで待ってて。 すぐ戻るから!」
キョーコはパタパタと駆け出してしまった。
「ま、待ってよ! キョーコ!」
その後について行くように、瓦礫に躓きながらヨネは走る。
匂いの元にたどり着くとそこには小さな鍋と、長い髭を生やした皺の多い痩せたジィさんが座っていた。
「ふぇ、客人とは珍しいな」
「こ、こんにちは」
「なんと! メッパイヤ語が話せるのか!?」
驚くジィさんに向かって、片耳にかけていたワイヤレスイヤホン型翻訳機を指さした。
「私の星では元々沢山の異星人が住んだり、物資の調達に来たりしてましたから、様々な宇宙言語のAI翻訳を内蔵してあるんです。 まぁ、たったの1万星語ですが」
「この世はまだ、わしの知らぬことばかりじゃな」
ジィさんは大きく目を開いたままほとんどうわごとのように、髭でよく見えない口を動かした。
「あの、私たち訳あって次の移住先を探していて……。 どこかに、知的生命体が集団で暮らしているようなところはありませんか?」
ヨネは淡々と要件を話す。
ジィさんはしばらく自分の顎髭を仙人のようにさすった。
「ワシはここしばらく、ワシ以外の生き物には出くわしておらん。 ここにある野菜が唯一の話し相手じゃ」
ジィさんは考える素振りをやめて、こちらをふいっと見上げた。
「そ、そうですか……」
ヨネは予想通りの答えに少しガッカリした。
「ジィさんはどうしてここに……?」
キョーコがジィさんに問いかける。
「ワシはただの冒険者だったものじゃ」
「だった?」
キョーコが再び問いかける。
「今はこのザマでな。 もう自由には動けれん」
ジィさんの右足は足の代わりに手作りと思われる義足がはめ込まれていた。
「これはひどい……。 一体どうして?」
ヨネはキョーコよりも先に質問した。
「この星には生き物はおらんが、機械なら沢山ある。 ワシの足は
ヨネとキョーコは顔を見合わせる。
あの伝説上の生き物とコンピュータとの共通点が見いだせずにいる。
「奴は恐らく兵器じゃ……。 そんなことよりお主ら、風呂には入りたくないか?」
ジィさんは打って変わって愉快な声を出した。
「は、はい」
ヨネはジィさんが急に話を変えたので、少し警戒した。
「お! 入る〜!」
キョーコは久しぶりのお風呂にテンションが上がってその場で小躍りして見せた。
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