出発地点

第1話 砂の星

「本当にあってるのかなぁ」


キョーコは疑いの目を向ける。


「母さんを疑うの? 」


「そーいうわけじゃないけどさ」


「でも、そういうことになっちゃう」


ヨネは少し心外そうにキョーコと小型のタブレットを覗き込む。


「まぁ、そう怒んなって〜」


キョーコが冗談ぽく笑って舌を出すと、ヨネもいかにも女の子らしくふふふと笑った。


「それにしても、なんもないねここは。砂ばっかり」


ヨネはそれに賛同するようにこくこくと頷いた。


「生体反応をさすマーカーまで、まだまだありそうね」


ヨネがそう言うとキョーコは少し不安そうな顔をした。


「こいつ、エネルギー切れとか起こさないよな」


「それは大丈夫。このゴーゴー柊号のエネルギー源は、母さんが開発した半永久機関システムを採用しているのよ。

それに、いざとなったら二酸化マンガンと亜鉛と水酸化カリウムを組み合わせて作った昔の道具、乾電池、というものを使えば、仮に半永久機関システムが何らかの衝撃を受けて壊れても、代わりのエネルギーとして使えるわ」


ヨネは流暢に淡々とすまし顔で説明した。


しかし、キョーコは首を少し傾けて頭の上に疑問符を出し続けていた。


「まぁ、ヨネが言うんなら問題ないっしょ!」


ヨネは誇らしげに白い肌を高揚させている。


「でも、こうも景色が変わらないとね。 つまんぬわぁい」


キョーコはいかにも退屈そうに欠伸をしながら話した。


「でも、未確認生物だらけの星よりずっと良かったわね」


ヨネは細いかすれ声で輪郭をなぞるみたいに話すくせがある。


「まぁね、おかげで生きてるわけだし。うぉぉお! 生きてるって最高! 命って最高!」


キョーコはハンドルから手を離して両手を目一杯空にかざし、雲を貫くくらい大きな声で叫んだ。


キョーコの褐色肌が、少しだけめくれた袖からよく見える。


「ふふふ、私もしようかな〜。うぉ! 命って最高っ!」


ヨネは細い声を振り絞り、長くて小枝のように細い腕を空に向けて掲げた。


空は薄暗い雲で覆われていて肌寒いが、その寒ささえ飲み込んでしまう二人の空気は、この地における財産であることだけは確かだった。


「見ろよ! この辺り、少しだけど草が生えてるよ」


キョーコがそう言うと、右手で大袈裟に前方を指さして見せた。


「わぁ! 緑を見るなんて何ヶ月ぶりかしら」


ヨネは興奮して、後ろの席からキョーコの頭をバシバシと叩き停止するように頼んだ。


キョーコは植物に近づき匂いを嗅いだ。


その匂いは、キョーコの故郷に茂っていた草の匂いにとても似ていた。 見た目は全然違うのに不思議だった。


ヨネは植物を丁寧にスケッチして、その下に場所やら植物の特徴を書き残していた。


「細長くて……、尖ってる……、触り心地はーーカサカサ?かしらね」


「ねぇ〜、早く次行こうよ〜」


キョーコはヨネの記録を急かすように言う。


「もう少し……。はい、行きましょう」


「乗って乗って! 飛ばすよ〜、僕のドライブテクに着いてこれるかな〜」


キョーコはワハハと豪快に笑う。


「自動運転でしょ」


ヨネが呆れたように微笑を浮かべる。


「出発!」


僅かな機械音と共に2人はマーカーを目指して進み始めた。

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