2023年)CUTREAT(きゅーとりーと)

 紫色の空、緑色の雲、橙色の星。誰も知らないお化けの世界で、たった一人、悩みを持つお化けがいました。

「どうして可愛くなれないんだろう?」

 女の子になりたいキョンシーのスゥは手鏡を見ながら、一重の目蓋、横に広がった大きな鼻、下がった口角にコンプレックスを持っています。でも体の関節はすでに硬くなってしまい、動かせません。

「あーあ、もっと生きたかったなあ……」

 スゥは自分の死に際を覚えていませんが、小さな体は享年を表していました。

 

 しばらくすると、ドアを叩く音が聞こえました。

「スゥ! トリック・オア・トリート! お菓子くれないとイタズラしちゃうぞー!」

 イタズラ好きの見習い魔女ルネはスゥの友達で、この世界のことを教えてくれた恩人でもあります。この世界のハロウィンと呼ばれる行事は初めてで、スゥは何が何だかさっぱり分かりません。

「ルネちゃんいらっしゃい。来るなら来るって言ってくれれば、大好きなクッキーを用意したのに」

「あ、そっか。スゥはハロウィンを知らないんだっけ? ハロウィンは年に一度のサプライズイベントで、いろんな人の家を回ってお菓子をもらうの。で、何も用意してない人はイタズラを仕掛けられるんだよ! イタズラって言っても、イタズラされる人がリクエストできるんだよ」

「えー⁉ そんなの聞いてないよー!」

 スゥの驚きにルネはとっても笑顔になりました。だって大好きなイタズラを仕掛けられるのですから。

「いっひっひー……。さあスゥ、どんなイタズラをご所望で?」

 ルネはすでに杖を構えていました。スゥは少し考えて、そしてひらめきました。

「じゃあ、僕の顔をルネと同じ顔にしてくれる?」

「えー? 何それー。私が二人いることになるじゃない。――あ、いいこと思いついた!」

「え?」

 これにはスゥも予想外でした。

「スゥ、この後って予定ある?」

「ううん」

「じゃあ今日一日、イタズラに付き合って!」

「え? う、うわあ!」

 ルネの魔法は勢いよく光り放ち、スゥの顔を一瞬にして変えました。

「じゃあ行くよ!」

「ちょっと待って! 鏡、見させて?」

「ちょっとだけね?」

 スゥはさっきまで持っていた手鏡を取り、本当に自分の顔がルネと同じ顔になっていることに驚きと嬉しさを隠せません。

(ルネの顔、結構かわいいかも)

「もう行くよー?」

 早くハロウィンを楽しみたいルネは、手鏡に映る顔にうっとりしているスゥを急かします。

「今行くー!」

 スゥはお出かけポーチを肩に提げて、ルネと一緒にハロウィンを楽しみます。


 最初に向かったのは、ルネの友達クロエの家です。スゥの家から見える距離にあるので歩いて向かいます。

「いい? 私がドアを叩いたら、思いっきり『トリック・オア・トリート』って言うの」

「ちょっと恥ずかしいけど、頑張る」

 スゥはクロエのことをよく知りませんが、深呼吸をして心の準備を整えます。そしてルネがタイミングを見計らってドアを叩きました。

「はーい」

「クロエ! と、トリック・オア・トリート!」

 けれどクロエはすぐに返事をせず、スゥの顔をじっくり眺めました。

「あなた、ルネじゃない。誰?」

 スゥは一発で見破られてどぎまぎしました。するとドアの後ろから顔を覗かせたルネがしたり顔でクロエを見つめていました。

「ルネー。そこでじっとしてても分かってるから。この子、誰?」

「前に話したスゥだよ。今日ハロウィンってことを知らなかったらしくて、イタズラしてあげたの。結構似てない?」

「似てない。というより、スゥ君? の方が作りすぎ。正直、ルネよりかわいいよ」

「ほ、本当?」

 スゥはかわいいと言われてちょっと嬉しくなりました。

「鏡持ってきてあげるから、二人並びなさい」

 クロエは小さな手鏡を持ってきて二人を映しました。

「あははー……。私の理想が丸出しね」

 ルネは恥ずかしげもなく人差し指で頬を掻きました。

「まあいいんじゃない? スゥ君が望んだイタズラなら」

「僕、かわいくなれてとっても嬉しいです!」

「へえ、男の子なのに珍しいね」

「僕、本当は女の子になりたいんですけど、ルネのイタズラのお陰で叶いました!」

「そう? 私ならもっとかわいくしてあげられるんだけど」

 クロエは自信満々に言いました。

「ちょっと! スゥの顔を勝手に変えないでよ!」

「いいじゃないハロウィンなんだから」

「ルールと違うからダメー! もう行くよ!」

 ルネは急に怒りだしてスゥの腕を引っ張り、別の家に行きます。その途中でスゥはルネに理由を聞きました。

「ルネ、どうして怒ったの?」

「クロエは私よりもセンスがいいから、スゥで遊ばれたくなかったの」

「ええ……、ルネが言うの?」

「あれはハロウィンのルールだからいいの!」

 スゥは納得のいかない答えにどう返事をすればいいか困りました。

「でも、かわいくしてくれて、ありがとう」

「――‼ も、もう! ほら! 次の家に行くよ!」

 スゥの素直な感謝に、ルネは照れ隠しをするように強く返事をしました。

 それからスゥとルネは近所の家を回り、驚かせたり、お菓子を貰ったり、楽しいハロウィンを過ごしました。


おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハロウィン・ショートショート 星山藍華 @starblue_story

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ