流行病で立て続けに両親を失った主人公。孤独となった彼女の唯一の支えは長年共に暮らしてきたアンドロイドのジェフ。だが、ある時の修理を境に彼はそれまでの記憶を失ってしまう。かくして彼女は良く知っているはずなのに全く見知らぬ存在となったジェフとの日常を過ごしていく。
全31話の短編で構成される本作では、特に大きな事件が起こったりするわけではない。描かれるのは彼女とジェフの淡々とした日常の連続だ。けれど、その日常の中でも小さく変化は起き続ける。最初は敬語だったジェフがため口で接するようになり、やがて自分の感情も見せるようになる。こうした些細な変化が積み重なって、やがて二人の関係にも確かな変化がもたらされていく。
本作は派手さがなくても、主人公の心情を丁寧に、そして丹念に描写することで何気ない日常もしっかりドラマとして成立するということを教えてくれる。
「隣人」であったジェフとの関係が少しずつ変わっていく過程を是非噛み締めて読んでいただきたい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)