最後
日比野雄二は警察に自首後、自宅で首を括った。彼が警察に語ったところに拠ると彼自身はあくまで悪戯として行っていただけで、かかる女性の死は偶然の出来事だった。
彼が語るところでは自分宛てに一通のメールが送られ、それは自作の出版化を促す内容だった。本人が意気揚々と当日指定された場所へ往くと、しかしながらそこには或る人物しかおらず、それでこの件が露見するに至ったと述べている。その人物は実に簡単に自分自身の悪戯の事と女性の殺害方法を述べたが、それは既に自分が小説で自白している事であり、何も特筆すべきは無いことだと日比野に言った。
では何故その人物が当人に嘘までついて自分を呼び出したのかは、あの時、自分が間違えたオーダー分の金銭の建て替えをしてくれたことへの感謝を伝えるだけの善意からであり、自分に対して女子殺害の犯罪の出頭をうながす意思はなかった。
しかしながらそれ以後彼が書いた自伝的殺害小説がウェブ小説で思いのほか好評を得続けたことが、彼自身を苦しめることになった。
そこで彼は遂に出頭を決意したが、あくまで自分が決意したのは自分自身への嘲りが自分自身の最高傑作をないがしろにされたく無いと言う彼自身の思いからであり、もしかすればその時から考えていたかもしれないが彼の自殺によりそれが崇高な『美』へと変化することを願ったのかもしれない。
ちなみに彼の作品『転坂』は今もウエブ小説の上位にランキングされ、近い内に書籍化が予定されているとの噂である。
(了)
小説家と漫画家 / 『嗤う田中』シリーズ 日南田 ウヲ @hinatauwo
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