行くな
ツヨシ
第1話
ある日、浮田が言った。
「今度、真奈美を誘おう」
浮田の言いたいことが俺にはわかった。
真奈美は本当かどうかはわからないが、自称霊感のある女だ。
そして「本当に霊感がある人は、心霊スポットなんて絶対に行かない」と言っていたことがあるのだ。
その真奈美を心霊スポットに連れ出そうと言うのだ。
場所は犬鳴村に決まった。
もちろん、正直に言ったら来るわけがないので、景色のいいところにドライブに行こうと言って誘った。
真奈美はなんの疑いもなく承諾した。
浮田の車で向かう。
途中、幹線道路を外れて脇道に入った。
犬鳴峠だ。
この先に犬鳴村がある。
「ずいぶんと酷い道ね」
「この先に絶景スポットがあるんだ」
浮田がそういうと、真奈美は「ふうん」と答えた。
しかしそのまま進んでいると、突然真奈美が叫んだ。
「ちょっと、あんたたち、いったいどこへ連れて行くつもりなのよ!」
「どこって、絶景スポットだって言ってるだろう」
「冗談じゃないわ。この先はまずいわ。とりかえしのつかないことになるわよ。今すぐ引き返しなさい!」
「いや……でも」
浮田はごまかそうとした。
しかし真奈美は後部座席から、運転中の浮田の髪をつかんで思いっきり引っ張ったのだ。
「いてぇ!」
浮田は思わず車を急停止させた。
「危ないだろう! こんな山道で俺の髪を引っ張るなんて」
「この先に行くほうが、ずっと危ないわ。死にたくなかったら、今すぐに引き返しなさい!」
すごい剣幕だ。
狂気すら感じる。
俺も浮田もその勢いに押されて、犬鳴峠の途中で引き返すことになった。
真奈美を家まで送ると、車から降り際に浮田の顔をじっと見て言った。
「もう、とりかえしのつかないことに、なったかも」
そう言うと、笑った。
翌日、浮田は信号無視の車に轢かれた。
終
行くな ツヨシ @kunkunkonkon
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