第3話 恋華、ツッコミまくる。父、センスがない。
私が恋師として生きていくことを決意すると、おばあちゃんは少し優しい口調になって言った。
「よし。条件3もクリアだね。おめでとう。これで恋華は『恋師』として認められたよ。」
何だか、実感がない。
もっとこう力がみなぎるというか、「覚醒!」って感じをイメージしてたけど、特に変化は無かった。
「えっと…これで有澄やその恋の相手の心が読めるようになったんですか?」
すると、おばあちゃんは少し表情を曇らせた。
「何か、変わった感じはしないかい?」
「特には…。」
「そうか。やはり、確実にお恋の血が薄まっているんだね。深恋の代までは何もせずとも心は読めたのだが。」
これは困った。私が恋師になる決意をした大きな理由の一つは、心が読めるからということだ。
その力が使えないのはダメージが大きい。
私が不安そうな顔をしていると、おばあちゃんは何かを決意して言った。
「あれを使う時が来たようだね。」
何だろう。まさか、お恋さんの血が取ってあってそれを飲むとか…?いや、いくら何でも悪趣味すぎるか。
「恋華。スマホは持っているね?」
「はい。持ってます。」
スマホ。何に使うんだろう。
「少し待っていなさい。」
そう言うと、おばあちゃんは部屋を出ていった。
戻ってきたおばあちゃんが持っていたのは、パソコンとUSBケーブル。
元の位置に座ると、おばあちゃんはパソコンを何やら操作し始めた。
「恋華。スマホの容量は十分にあるね?」
「はい。」
「少し貸してちょうだい。」
何をするんだろう。変な検索履歴とかは無いし、貸すのに抵抗はないけど。
私のスマホとパソコンをケーブルで繋ぐと、おばあちゃんはマウスを「カチッカチッ」とクリックした。そして、マウスから手を離す。
「3分くらい待ってちょうだい。」
3分か。
「3分ってことはカップラーメンが作れますね」というのはネタとして鉄板すぎてつまらないな。いや、そもそもおばあちゃん相手に冗談とか言えないし。
そんな訳の分からないことで私が悩んでいると、カップラーメンができた。
じゃなくて3分が経った。
「うん。これでよし。」
おばあちゃんがスマホを返してくれる。
見てみると、ホーム画面に新しいアプリが入っていた。名前は…「恋師デジタル」。
「恋師デジタル」…
「恋師デジタル」…
「恋師デジタル」…
いや、ネーミングセンス!
頭悪そうなの新聞の電子版ですか!?
恋師新聞ですか!?
それに、恋師+デジタルってパワーワードすぎるから!
てか、何で勝手に人のスマホに謎のアプリ入れてんの!?
私の頭の中にツッコミの嵐が吹き荒れるのをよそに、おばあちゃんはしれっと言った。
「そのアプリを起動してみなさい。」
うわ、大丈夫かなぁ。壊れたりしないかな。
パソコンから入れたってことは、ストアなんかにある正規のアプリじゃないってことだよね。
不安だなぁ。
思い切ってアイコンを押してみる。
アプリが起動して、画面に大きく「恋師デジタル」と表示される。
それもピンクで。うう、本当に頭悪そうに見える…。
「あれ、音が鳴るはずなんだが。」
「あ、きっとマナーモードだからかな。」
「そうなのか。少し音を出せるかい?」
私はマナーモードを切って、アプリを再起動する。
「恋師デジタル」の文字が消えた後、クラッカーから花吹雪が飛び出したので、何となくどんな音が鳴るかは察しがついてるんだけど。
画面にまた「恋師デジタル」の文字が映る。
「恋師デジタル!!」
うわ、びっくりしたぁ。そこも音声付きなのか。かわいい女性の声だ。
そして、クラッカーから花吹雪か飛び出す。
無音で。
不調かな?
私はまたアプリを再起動する。
「恋師デジタル!!」の声の後、またしても無音の紙吹雪。
しばし、私は画面を見つめて固まった。
おばあちゃんの方を見ると、満足気な顔をしてる。てことは、不調は無いということだ。
クラッカーの音、どこいったー!!!
タイトルコールは音声付きで、その後無音の花吹雪とかシュールすぎるでしょ。
気付けば、お母さんが横から覗き込んでいる。
「おお〜。さすが健一さんね。」
「
「まさか、これお父さんが作ったの?」
お母さんはすごく嬉しそうに頷く。
お父さん…。色々とセンスが…。
「深恋。少し離れなさい。私が今から使い方を説明するから。」
お母さんが少しふくれっ面をして元の位置に戻る。
代わりにおばあちゃんが私の横に来ると、色々と説明を始めた。
おばあちゃんは何やら難しい言葉を使っていてよく分からなかったので、私なりに理解出来たところでまとめるとこうなる。
「恋師デジタル」は対象のカップルの精神状態を分析・表示してくれるもので、現状では心が読めない私のサポートになるアプリ。
ちなみに、使うのは私が初めてだそうだ。
てことは、
「おばあちゃん。さっき言ってた『あれ』ってこのアプリですか?」
「そうだよ。」
ですよね。
お恋さんの血とか想像した自分を殴りたい。
ついでに、あまりにセンスのないお父さんを殴りたい。まぁ、やらないけど。
おばあちゃんは、もう一度ピリッとした空気を纏うといった。
「さぁ、これで準備は整いました。これから立派な『恋師』になれるよう頑張りなさい。まずは、有澄というその子の恋を成就させること。いいね?」
「はい。」
私も真面目な顔でしっかり答える。
それと同時に、頭が痛み出した。
それは決して、おばあちゃんの怖さやこれからへのプレッシャーや、ましてやお父さんのセンスのなさから来るものではない。
有澄…。
恋してるなんて聞かされて、その恋を叶えてあげなきゃいけないなんて。
私は今度から有澄とどう接したらいいの〜!?
私の心の叫びは、間違って触れてしまったアプリのタイトルコールに吹き飛ばされた。
「恋師デジタル!!」
高宮恋華はくっつけたい!! 〜恋師として目覚めた少女、ツンデレカップル成立に向けて奔走する〜 メルメア @Merumea7
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