8.明日に続く帰り道

その日祥吾たちは三人で下校し、途中で後ろから走ってきた西に呼び止められた。西は泣いて目を腫らしている植木を見てぎょっとしていたが、祥吾たちから事件の真相を聞くと、やっぱり一人でかかえこんでいたんだと納得した。そして立ち聞きしていたことを自ら明かし、植木に謝った。

「ごめんね、悪気はなかったんだけど、立ち聞きして。何もしてあげられなくて」

植木はまさか西が自分が犯人だと知っていたとは夢にも思っていなかったようで、しかしわずかに逡巡するとどこか腑に落ちたように眉尻を下げた。

「西さんのことだったのか。俺の味方って」

植木は祥吾に目をやり、それを受けた祥吾は困ったように頭を掻いた。


――――………


四人で帰路を辿りながら、話題はこれからどうするかということだった。

よくよく話を聞いてみれば、植木はクラスメイトの私物を盗みはしたものの、まだ盗んだものを担任に渡していなかった。植木いわく本当に推薦してもらえる確証がなかったので、推薦が決まってから受け渡すつもりでいたそうだ。

「賢明な判断だよな」智也が言った。

「私物だけ渡して約束が果たされないんじゃ、リスクを冒してやった意味がなくなっちまうもんな。それで? その私物は今どこにあるんだよ?」

三人の視線が植木に集まる。

「俺の家だよ。明日にでも全部返してみんなに謝る。掲示板のスレッドも帰ったらすぐに削除して、代わりに謝罪文を載せようと思う」植木ははっきりとした口調で答えた。

西がほっとした様子で言った。

「うん、それがいいよ。たとえ許してもらえなかったとしても、ちゃんと謝ったほうがいい。今より気持ちも軽くなると思う」

「ありがとう」植木は西に礼を言った。決意の籠もった表情をしていた。

不意に祥吾が口を開いた。

「もしかしたらさ、事件のせいで植木の推薦の話が流れてしまうかもしれないけど、奨学金をもらうために推薦を受けようとしてたなら、その道が閉ざされても、一般入試で受けて特待生制度を利用するのもありなんじゃないかと思うんだ。植木、知ってたか? 大学には特待生制度っていうのがあって、入試の成績が優秀だった生徒を対象に、大学によって一部の授業料が免除されたり全額免除されたりするんだ。詳しいことは調べてみるといいよ。俺が言うのもなんだけど、俺に推薦が回ってきたのは部活の功績によるところが大きいと思うんだ。俺はさ、いつも確実に高得点を取れるお前と違って試験の成績の振れ幅が大きくい。問題のタイプによって成績の落差が激しいんだ。だから、お前が思ってるほど俺の成績は良くないんだよ。その点お前なら一般入試でも十分実力で特待生勝ち取れるんじゃないのかな」

植木は驚いた様子で目を見開き、俯いて歩を止めた。

「なんでだよ」

三人も立ち止まって植木を見る。

「なんでひどいことしたのに、そんなこと教えてくれるんだよ」

植木は制服の袖で目元をぬぐった。

「お前が辛いと多分、西さんも辛いからさ。俺、西さんには助けられたから、西さんを助けるためにお前を助けるんだよ」

祥吾はてきとうなことを言った。

「なんだそりゃ」

智也が祥吾の肩を叩いて笑った。

「なに言ってんの」

西は言いながら頬を赤らめていた。

「ほら、早く帰ろーぜ。日が暮れる」

智也に促されて植木が顔を上げて歩き始める。

「ありがとう。そして本当にごめん」

植木の背後では沈み始めた夕日が、温かな光を放っていた。






(おわり)

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我が身を抓って人の痛さを知れ @haruka1007

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